“飛ばない”金属バットを試合で使ってみたら… 中学生選手たちが感じた違和感の数々

中学生硬式野球で“飛ばない”金属バットを使って試合が実施された(筆者撮影)

 冒頭から恐縮だが、“飛ばない”金属バットというのをご存じだろうか。日本ではまだ馴染みがないように思うが、木製バットとほぼ同じ反発係数に調整された低反発金属バットのことだ。米国のアマチュア球界(高校野球、大学野球も含む)では2012年から同バットの使用が義務づけられているのだが、日本ではいまだ製造も、販売もされていないものだ。

 米国ではアマチュア球界でも選手たちのパワー化が進み、従来の金属バットでは打球速度が上がりすぎ、高校や大学の試合では選手が負傷してしまう事故が相次いでいた。そこで事故予防を目的に開発されたのが低反発金属バットだ。もちろん日本でもパワー化の方向に進んでおり、最近は高校野球などでも甲子園球場でプロ並みに本塁打が量産されるようになってきているが、それでも金属バットの規定は変更されていない。

 そんな中大阪で、興味深い取り組みが行われた。DeNAの筒香嘉智選手や西武の森友哉選手を輩出した堺ビッグボーイズを運営するNPO法人の『BBフューチャー』がメディアを招待し、低反発金属バットを使用して試合を実施したのだ。

 対象地合となったのはBBフューチャーが5年前から主催している『堺市長杯フューチャーズリーグ』で組まれたリーグ戦で、堺ビッグボーイズと南大阪ベースボールクラブの中学2年生チームと3年生チームが、それぞれ1試合ずつ両チームともに低反発金属バットを使用して試合を行った。

 試合結果は、2年生の試合が3-0、そして3年生の試合が2-0と、それぞれ南大阪が勝利している。このリーグ戦は9月1日に開幕し、すでに数試合を消化しているのだが、ここまで1試合当たりの両チームの平均得点は、2年生で9.3得点、3年生で7.8得点となっており、低反発金属バットを使用した2試合は、極端なロースコア試合になっているのがわかるだろう。

 得点ばかりではない。安打数も少なければ、長打もほとんど生まれなかった。2年生の試合では全8安打中1本(二塁打)、3年生の試合も全6安打中2本(二塁打と三塁打)に留まっている。2、3年生どちらの試合でも共通していたことだが、試合中に打球が飛ばないことが分かり、外野の守備位置がどんどん前に移動していった。

下が低反発金属バット。見た目はまったく変わらない(筆者撮影)
下が低反発金属バット。見た目はまったく変わらない(筆者撮影)
米国では「BBCOR」の認定を受けたバットしか使用できない(筆者撮影)
米国では「BBCOR」の認定を受けたバットしか使用できない(筆者撮影)

 それでは実際に低反発金属バットを使用した選手たちの感想はどんなものだったのか。ビッグボーズの各選手に確認してみた。

●向山晴稀(むこうやま・はるき)くん(3年生チーム/キャプテン/二塁手)

 「いつも捕らえている感覚と全然違って、捕らえているつもりなんですけど全然飛ばないというのが現状で、自分が使っている普通のバットだったら芯でなくても飛んでいくんですけど、低反発金属バットは芯じゃないと飛ばないという感じがします。(この日安打を放っているが)いつも使っているバットだったらセンターフライだと思うんですけど、逆に低反発金属バットだから(センター手前に)落ちてくれた感じでした(笑)。

 練習ではみんなも低反発金属バットでいい当たりとか打ってるんですけど、試合になると全然違ってて、実戦でもっと低反発金属バットを使っていかないとダメですね。ヒットを打つ難しさを感じました。このバットで打てるようになったら、普通の金属バットでももっと打てるようになる感じがします。

 (守備でも)打球も違いましたね。いつもなら打球とかもすごく速いんですけど、低反発金属バットになるとゆっくりなゴロが多くて、いつもよりは捕りやすかったです」

●西村虎之助(にしむら・こうのすけ)くん(3年生チーム/投手)

 「普通の金属バットだったら当たるだけでめちゃめちゃ飛んでいくので、結構本気で投げないと抑えられないんですけど、低反発金属バットだったらフルスイングして芯に当たらないと飛んでいかないので、7割くらいの気持ちで投げることができます。

 甘く入って打たれたと思ってもセンターの定位置だったりとかが多いんで、そこら辺は普通のバットとは違うかなと思います。(低反発金属バットなら)打者の恐さというのもあんまり感じないです」

●山元翔太(やまもと・しょうた)くん(2年生チーム/キャプテン/捕手)

 「金属バットなら詰まったとしても外野に落ちたり、いい打球がいくんですけど、低反発金属バットだったら引きつけて叩いて打たないとヒットは打てないし、飛んでいかないです。金属バットだとあまり感触がないんですけど、低反発金属バットだと結構感触があって、あんまり飛んだ感はありませんでした。

 今日はいつもの感じで振っていたので、ゴロとか詰まったりフライが上がったりしていたので、また低反発金属バットを使う時は引きつけてセンターに強い打球が打てるようにしたいです」

●中濱佑太(なかはま・ゆうた)くん(2年生チーム/投手)*正式には濱の漢字は異体字(旧字)

 「(この日1安打を記録したが)あんまり飛ばないですね。芯に当たって打てたと思っても全然飛ばないです。(低反発金属バットを使った)練習では緩い球を投げてもらっているので、速い球は全然違いました。

 (投手としては)いつもより変化球が少なく、ストレートでいきました。スレートを投げる方がストライクがとれるし、そんなに飛ばないのでボールカウントを増やすよりはストレートを投げました」

 如何だろう。どの選手も、通常の金属バットとはまったく違う感触に戸惑っている様子が窺い知れるだろう。

 実は選手たちの言葉にもあるように、BBフューチャーでは昨年からチームとして低反発金属バットを購入し、ティーバッティングやトスバッティングで木製バットと併用して同バットを使用して練習させている。そうした低反発金属バットに慣れているはずの選手たちでさえ、いざ実戦で使用してみるとこれだけの戸惑いを口にしているのだ。

 BBフューチャーが選手たちに低反発金属バットや木製バットを使用させているのは、彼らにしっかりしたバッティング技術を身につけさせるためだ。簡単に打ててしまう金属バットでは、そうした技術を習得するのは容易ではない。それは選手たちの反応をみればわかるだろう。しかも投手2人の感想からも明確なことだが、低反発金属バットを使用することで、投手の負担(球数、球種など)も軽減させることができそうなのだ。

 日本では大学野球以上にならないと、木製バットを使用する機会はほぼ訪れることはない。無理をして低反発金属バットを導入する必要はないかもしれない。だがここ数年、夏の甲子園大会後に実施されているU-18の国際大会で、日本代表チームは慣れない木製バットの影響もあり、なかなか勝てない状況が続いているのは紛れもない事実だ。簡単に飛ばすことができる金属バットに慣れ親しんだ選手たちが、いきなり短期間で木製バットに対応できないのは当然だろう。木製バットに変わっても同じような打撃ができるようになるには、やはりジュニア期からしっかりした技術を身につけさせなければ無理だろう。

 BBフューチャーでは他チームと協力していきながら、3年生の残りリーグ試合ですべて低反発金属バットを使用して実施していく方針だという。彼らの取り組みはまだまだ小さいが、今後さらに全国に拡大していくことを祈るばかりだ。

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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