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苦戦が予想された京都ハンナリーズが開幕から3勝1敗スタート 成功の裏に隠された真実とは?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
本拠地開幕2連戦で計30アシストを記録する活躍をみせたマブンガ選手(筆者撮影)

 シーズン開幕前に京都ハンナリーズはある意味世間から注目を集めたチームだった。日本代表の一員としてアジア大会に参加していた永吉佑也選手が他の選手2人と大会開催地のインドネシアで買春行為を行ったとして1年間の公式戦出場停止処分を受け、その直後に別の選手が窃盗容疑で逮捕され、契約解除処分を受けることになった。

 さらに外国籍選手の獲得が遅れ、新加入のデイヴィッド・サイモン選手がチームに合流したのは9月20日のこと。そうした選手不足の状況から、チーム内で5対5の練習すら満足にできないままシーズンを迎えるしかなかった。浜口炎HCも「例年より6週間遅れている」と認めるほど、準備不足は明らかだった。

 だが、いざシーズンが開幕してみると、敵地で迎えた第1節は三遠ネオフェニックス相手に1勝1敗のタイで終えると、本拠地開幕となった第2節は横浜ビー・コルセアーズ相手に連勝し、3勝1敗のスタートを切ることに成功している。

 ここまでの結果に浜口HCは、正直に「出来過ぎ」だと評している。それもそのはずだ。どのチームにとっても主力になる外国籍選手が、チーム合流からまだ1ヶ月も経っていない状況で、チーム・システムを機能させるのは簡単なことではない。しかも昨シーズンは外国籍選手とともにフロントコートを担ってきた日本人ビッグマンの永吉選手を失っている状態なのだから、今も弱点を抱えたまま戦っているようなものなのだ。さらに貴重な“スーパーサブ”の片岡大晴選手も負傷のため開幕から欠場しているのだから尚更だろう。

 それでもチームは3勝1敗という成績を残し、合流したばかりのサイモン選手も目覚ましい活躍をみせている。ビー・コルセアーズとの第2節を見ても、第1戦は20得点、7リバウンド、3アシスト、4ブロックショットを、そして第2戦も32得点、9リバウンド、1アシスト、1ブロックショットを記録しているのだ。

 サイモン選手の個人能力の高さもあるのはもちろんだが、なぜ合流したばかりの選手がここまで活躍できるのだろうか。実はこの点に、ハンナリーズの強さの秘密が隠れているのだ。

 「昨シーズンから残ってくれたメンバーが非常によくて、ここまで立て直そうと頑張ってくれていますし、いつも言っていますがベテラン選手たちがすごく安定していて、オンコートでもオフコートでもチームをなんとかしようという意識がありますので、そこがすごく助かっている部分です。彼らのお陰で勝つことができたと思っています。

 今もうちの選手たちは、どのコーチが来てプレースタイルやシステムを変えても対応できるIQの高い選手たちが揃っていると思っているので、そういう意味ではデイヴィッドが入って、2年目で(伊藤)達哉も2年目で大分ボールがプッシュできるようになって、周りの選手もそれについていくようになってきています」

 浜口HCが説明するように、昨シーズンにチャンピオンシップ進出を果たした主力選手のほぼ全員がチームに残った。彼らは皆、浜口HCが目指すバスケを理解しており、その中で彼らは確実にサイモン選手を生かす術を知っているからこそ、彼がここまで活躍できているわけだ。

 それはサイモン選手も一緒にプレーしながら十分に感じ取っている。

 「確かにいいプレーができているが、それは他のみんなもいいプレーができているからだ。自分もオフェンス、ディフェンスともに本当にいい感じでプレーできている。特にジュリアン(・マブンガ)が本当にいいパスを出してくれて、自分の仕事を本当に楽にしてくれている。

 このチームは本当に皆で戦っている。例えば(岡田)優介は素晴らしいシューターで、彼が気持ちよくシュートを打てるように自分もしっかり(相手選手を)ブロックするように頑張っているし、逆に他の選手たちも自分がイージーショットを打てるように頑張ってくれる。

 このチームに合流してから常に皆が自分に声をかけてくれ、自分がどんなプレーが得意で、何が苦手なのかを確認しながら、このチームにフィットするように努力してくれている。自分にとってもチームにとってもすごく重要なことで、それがここまで上手くいっている」

 サイモン選手の言葉が物語るように、昨シーズンからチームに加わったマブンガ選手も、今シーズンは彼の能力をさらに発揮しているようだ。同じくビー・コルセアーズとの2連戦をみても、第1戦は15得点、11リバウンド、14アシストのトリプルダブルを記録し、第2戦も19得点、8リバウンド、16アシストと、チームを牽引する活躍をしている。これもすべて、選手たちが自分たちの役割を理解し、その仕事を全うしているからに他ならない。

 第2節を終え浜口HCは「勝つことによってチームは1つになりますしチームが成長できます。勝って反省できるというのはすごくいいこと」と満足そうに話している。だが永吉選手の穴を埋めるため外国籍2選手は常にほぼフル出場の状態で、このままの戦いを続けるのは簡単ではないだろう。

 好スタートを切ったとはいえ、まだまだシーズンは始まったばかりだ。ハンナリーズがこれからも常にギリギリの戦いを強いられるのは間違いないし、その点は浜口HC以下、選手全員が理解していることだ。その上で彼らがどんな戦いを続けていくのか、やはり興味を抱かずにはいられない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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