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ジャイアンツを襲った日本人スタッフを巻き込んでの“人種差別”騒動

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
人種差別的な行動をとったとして非難されることになったデレック・ホランド投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 複数の米メディアが報じたところでは、ジャイアンツのデレック・ホランド投手がTV番組に出演し、共演した日本人スタッフを侮辱するような言動をしたとして批難を浴び、人種差別騒動になっているというのだ。

 ホランド投手が出演したのはMLBネットワークで放映されている人気トーク番組の『インテンショナル・トーク』だ。毎回2人のホストがゲスト出演する選手から面白エピソードを引き出すことで有名で、かつてブルージェイズ時代の川崎宗則選手が同番組に出演し、全米中の人気者になったきっかけにもなった番組だ。現地22日の放送で、ホランド投手は遠征地のシティフィールドから参加していた。

 ホランド投手は同番組の常連のようで(それだけユーモアに富んだキャラクターだということを意味する)、今回は長年ジャイアンツでマッサージ・セラピストを務めている日本人の小川波郎氏を伴っての出演となった。ホストとの間でトークが展開していく中で、ホランド投手は何度となく小川氏とのやりとりがあったのだが、そこでホランド投手が小川氏と披露したパフォーマンスが問題になっているらしい。MLB公式サイト等で公開している同番組の動画では該当するシーズンがカットされているが、スポーツ専門サイトの『DEADSPIN』では動画を添付して紹介している。

 批判を受ける原因となったのが、小川氏とのやりとりでホランド投手がアジア人のようなアクセント、口調を真似したことだ。アジア人を侮辱する行為であり人種差別にあたるとして、それを問題視するメディアが現れたことで、ちょっとした騒動になってしまったのだ。

 だが、待ってほしい。長年MLBを取材してきた経験からいえば、こうしたパフォーマンスは決して珍しいことではない。例えば今では日本でのすっかりお馴染みだが、エンゼルス選手たちが活躍した大谷翔平選手をベンチに迎え入れる時にお辞儀パフォーマンスをしている。あれも視点を変えれば、外国人からお辞儀ばかりしているように見える日本人を小馬鹿にしているパフォーマンスになってしまう。あまりに狭義に捉えすぎていないだろうか。

 昨年のワールドシリーズでアストロズのユリエスキ・グリエル選手が試合中に、ダルビッシュ有投手に対しアジア人を侮辱するジェスチャーをしたということで問題になった。中には今回の一件も同様の扱いをしているメディアもいるようだが、そもそもあのようなパフォーマンスは日頃からやっていなければ披露できるはずもないし、もし小川氏が不快に感じていたのならホランド投手本人に直接伝えればいいことだし、番組出演も断ればいいだけの話だ。当の本人がホランド投手とジョークとして楽しんでいるのだから、周りが目くじらを立てる必要があったのだろうか。

 さらに今回小川氏はヘッドフォンを着用しておらず、ホストの声はまったく聞こえてなかった。印象として小川氏が英語をあまり理解していないように見えてしまったのが(小川氏の英語力はまったく問題ない)、さらにホランド投手が揶揄しているような印象に映ってしまったようだ。ホランド投手は長年レンジャーズに在籍し、建山義紀投手、上原浩治投手、ダルビッシュ有投手とチームメイトだった経験もあり、決して日本人を侮辱するような選手ではなかった。まさに不運としかいいようがない。

 事態を重く見たチームはホランド投手と話し合いを行い、彼の言動がどのような影響をもたらしたかを確認したという。その結果ホランド投手はメディアの前で全面的に謝罪し、地元メディア記者がその内容をツイートしている。

 もちろんホランド投手の言動を、自分とは違い不快に感じた人もいるかもしれない。だが現場をよく理解していない周囲から“言葉狩り”のような監視が続けば、人々の線引き次第でエンゼルスのお辞儀パフォーマンスすらできなくなってしまうのだ。MLBの人種差別を真剣に考えるのなら、もっと本質部分を見るべきだろう。

 いずれにせよ今回の一件で最も心を痛めているのは、誰あろう小川氏ではないだろうか。守られるべき対象だった人物を一番傷つけてしまう人種差別批判が正しいものとは到底思えない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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