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早くも60試合登板を果たした平野佳寿を待ち受ける過酷すぎるラストスパート

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
早くも今シーズン60試合登板を果たした平野佳寿投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 現地22日に地元フェニックスで行われたエンゼルス戦で、5-1の9回から平野佳寿投手が登板し、無安打無失点で試合を締めくくった。この日の登板は、自身にとって記念すべき今シーズン60試合目となった。

 今更説明するまでもないが、今シーズンの平野投手の活躍は目を見張るものがある。日本人メジャー選手の中でMVPに値するといっても、反対意見は少ないはずだ。60試合登板はチームに途中加入したブラッド・ジーグラー投手を除けば、アーチー・ブラッドリー投手、アンドリュー・チャフィン投手と並びチームトップタイで、しかも両リーグ合わせても9位タイにランクしている。

 またポジションに関係なくチーム勝利の貢献度を指標にした「WPA(Win Probability Added)」ではここまで2.4をマークし、ナ・リーグ投手部門で8位にランク入りしている。ダイヤモンドバックス投手陣でベスト10入りしているのは平野投手のみであり、彼がどれだけ大車輪の活躍をしているかが窺い知れるだろう。

 MLB公式サイトによれば、現在のペースで投げ続けると今シーズンの予想登板数は72試合になるという。これはオリックス時代の2011年シーズンに記録した自己最多登板数に並ぶことになる。当時の平野投手は27歳で選手としてピークを迎えようとしていたが、現在の平野投手は34歳。同じ72試合といっても、その肉体的、精神的負担はかなり違っているだろう。

 さらに今シーズンの平野投手は30代で自己最多登板にNPBは144試合制シーズンで、162試合制のMLBより試合が少ない分登板間隔という面ではオリックス時代の方が大変だっただろう。しかしほぼ同じシーズンでありながら試合数が少ないNPBでは、MLBよりはるかに完全オフ日が多いのだ。試合に登板しなくても、試合前の練習は行うし、試合になれば常に緊張感を保っておかないといけないし、場合によってはブルペンでアップしなければならない。そうした環境が違う中でここまで60試合投げてきた平野投手に、かなりの負担がかかっているのは間違いないころだ。

 そんな中でいよいよ今シーズンのラストスパートに突入しようとしている。チームはロッキーズ、ドジャースと熾烈な地区首位争いを演じており、これから直接対決がまだ14試合(両チームともに7試合ずつ)も控えている。さらに9月以降の対戦相手は2チーム以外も強豪ばかり。パドレスとの5試合を除くと、ブレーブス、アストロズ、カブスという地区首位チームばかり。毎日のように“待ったなし”の戦いを強いられるのだ。

 勝敗の分かれ目となる場面で登板しなければならない平野投手にとって、これからの登板が本当の意味で正念場となるだろう。このままチームが地区優勝を飾れれば最大の功労者の1人として称えられるが、本来の投球ができずにチームもポストシーズン進出に失敗するようなことになれば、戦犯扱いされることにだってなりかねないのだ。そうした覚悟が求められる残り1ヶ月といえる。

 かつて現役当時の黒田博樹投手が期待がかかる中で投げ続けることを“命を削る作業”と表現してくれたことがあった。2013年シーズンにレッドソックスを世界王者へと導いた上原浩治投手の姿は、まさに体内に残されたわずかなエネルギーを極限まで燃やし続けているようにさえ思えた。

 果たして平野投手はどんな1ヶ月を過ごすことになるのだろうか。とにかく全身全霊を込めた投球を見守るしかない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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