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ダルビッシュ有を擁護し続けるジョー・マドンのブレない姿勢

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
MLB屈指の選手思いの指揮官として知られるジョー・マドン監督(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 米国では選手の気持ちを理解し、彼らが気分良くプレーできる環境を整える指導者のことを、「Players' Manager」とか「Players' Coach」と表現する。もちろんMLBにもそうした選手思いの指揮官が存在しているのが、その象徴的な1人がカブスのジョー・マドン監督だ。そんな彼の姿勢を端的に表す出来事が起こった。

 MLB公式サイトら複数の米国メディアが報じたところによれば、マドン監督が現地12日に行われたカブス対ナショナルズ戦の試合前に、同試合の解説を担当していたアレックス・ロドリゲス氏と個別会談を行ったという。

 ロドリゲスといえばESPNで解説者を務め、7月29日のカージナルス対カブス戦を担当。その放送中に長期離脱中のダルビッシュ有投手について触れ批判的なコメントをしていた。それを聞きつけたマドン監督は真っ向から反論し、ダルビッシュ投手を完全擁護していたのは、日本でも大きく報じられている。そんなロドリゲス氏が批判コメント以来のカブス戦を担当したことで、マドン監督は監督室にロドリゲス氏を招いて話し合いを行った。

 マドン監督は話し合いの内容について詳細を明らかにしていないが、以下のように話している。

 「アレックスと私は本当にいい話し合いができた。自分は好感触を抱いているが、アレックスも同じように感じていてくれたらと思う。

 (自分の故郷の)ハゼルトンに関連した自分のグループが悪くいわれるようなら、私は公然と声を挙げるだろう。自分の仕事は彼らを守ることであり、それは親であるのと何ら変わりはない。

 明らかに正しくないと分かっているのだから、誰であろうとそうしたことを(記事に)書くのは無責任だ」

 これまでロドリゲス氏に限らず、今シーズン開幕から期待通りの投球ができず5月20日を最後に長期離脱中のダルビッシュ投手に地元メディアからもたびたび懐疑的な意見が出ていたが、マドン監督はそのたびに彼を擁護してきた。昨オフのFA市場で最大の契約を結びカブスにやってきたダルビッシュ投手。周囲の期待を肌で感じながらも不本意なシーズンを送っていることに強い憤りを感じているのは、他でもない彼自身のはずだ。そんな中で様々な批判、プレッシャーから守ってくれるマドン監督の存在はどれだけ頼もしく映っているのだろうか。

 これまでもマドン監督は、選手が無気力プレーをした際に懲罰交代をするようなことはあっても、自分が指揮する選手について絶対に公の場で批判をしてこなかった。それは選手たちに余計な負担やプレッシャーを与えることなく、プレーに集中できるクラブハウスの雰囲気づくりを最重要課題に考えているからに他ならない。遠征時の服装を完全自由にしたり、試合前の打撃練習を自己申告制にしたりと、伝統にとらわれない独特なアイディアを取り入れてきたのも、すべて選手を一番に考えているからだ。それこそがマドン監督の真骨頂なのだ。

 シーズン前半戦は決して盤石な戦いができていたわけではないが、いつの間にかナ・リーグ最多勝で中地区1位を走るカブス。ここまで37度の逆転勝ちを収めるなど、現在のチームは着実に勢いを増している。改めてマドン監督の指導力の妙を見せつけられるシーズンになろうとしている。

 それしても日本でもマドン監督のような指導者が現れることはないのだろうか。心待ちにしているのは自分だけではないだろう。きっと日本球界に新しい風を吹かせてくれると思うのだが…。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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