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カブス対ナショナルズ戦で飛び出した“アルティメイト・グランドスラム”

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
MLBでの滅多にない“究極の本塁打”を放ったデビッド・ボート選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 MLBに「アルティメイト・グランドスラム(Ultimate Grand Slam)」という言葉があるのをご存知だろうか。「グランドスラム」が満塁本塁打を表すというのは一般的になっていると思うが、その“究極版”をいうべきもので、3点差をひっくり返す逆転サヨナラ満塁本塁打のことを指す。そんな夢のような一発が現地12日に行われたカブス対ナショナルズ戦で生まれた。

 試合は0-3で迎えた9回裏2死満塁。この重要な局面に代打に立ったのがデビッド・ボート選手だ。カウント2-2からライアン・マドソン投手が投じた5球目だった。膝下95マイル(約153キロ)の真っ直ぐを捉えると、打球はぐんぐん伸び、センター後方のTVカメラエリアを直撃した。リグリー・フィールドに集まった3万6490人のファンはまさに狂喜乱舞。もちろんグランドでも選手たちは大騒ぎしながら、ヘルメットを高々と上空に投げ出しながらホームへ突進してきたボート選手を次々に手荒い祝福で迎え入れた。カブスにとって今シーズン37度目となる逆転勝利は、あまりに劇的な幕切れとなった。

 ボート選手は今年4月にMLBデビューを飾った25歳内野手だ。今シーズン間はここまでMLBと3Aの間を行き来する日々で、7月18日に5度目のMLB昇格を果たしたばかりだった。それでもMLBに定着できないながらも非凡な打撃センスを発揮し、この日の試合前まで33試合に出場し、打率.320、2本塁打、14打点を残し、OPSも.904(.900以上で強打者といわれる)と高い数値を記録している。

 ボート選手が放った本塁打は単なる「アルティメイト・グランドスラム」ではない。さらにそこに“代打”とという形容詞がつく。つまり日本風にいえば「代打逆転サヨナラ満塁本塁打」となる。まさに打者にとって究極ともいえる一発だが、長い歴史をもつMLBともいえども滅多に生まれるものではないようだ。

 個人的にネット検索したところ、米国のQ&Aサイト『Quora』に回答している元データ・サイエンティストによれば、これまで代打アルティメイト・グランドスラムが誕生したのはたった6回だけだという。最も新しいところでは2011年8月16日に当時アストロズに所属していたブライアン・ボグセビック選手がカブス戦で記録しているようだ。

 しかもボート選手のように2アウトから放った一発となるとさらに数が減り、過去には1979年5月1日にロジャー・フリード選手(当時カージナルス)と1970年8月11日にカール・テイラー選手(同じくカージナルス)が放った2本のみ。中でもフリード選手は延長11回表に3点差を奪われた後で生まれた代打アルティメイト・グランドスラムという劇的なものだった。

 改めてボート選手の一発はMLBでもかなり貴重な究極の本塁打だったわけだが、奇しくもこの日のカブス対ナショナルズ戦はESPNが『サンデー・ナイト・ベースボール』として全国放送しており、たぶん今回が全米に生中継された初めての代打アルティメイト・グランドスラムになったのはないか。

 まさに全米中の記憶に残る本塁打になったようだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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