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日本ハム2年目で安定感を増した村田透が歩み続ける脇役人生

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
インディアンス時代もずっと脇役であり続けた村田透投手(筆者撮影)

 逆輸入投手として昨年日本ハム入りした村田透投手がシーズン2年目を迎え、ここまで安定した投球を披露している。ここまで7試合に登板し(うち先発5回)、3勝0敗、防御率3.31を残している。昨シーズンは15試合に登板し(うち先発8回)、1勝2敗、防御率2.77だったことを考えると、昨年以上に先発として機能していることが理解できるだろう。

 中でも特筆すべきなのがQS(クォリティ・スタート)率だ。QSとは先発投手の評価としてMLBでよく使われている指標で、「6回以上3失点以下」だった登板はすべてQSとしてカウントされる。勝敗だけでは判断できない先発投手の安定度を示すものだ。このQSを達成した確率がQS率となるわけだが、ここまでの村田投手は80%で、ニック・マルティネス投手の88.89%に次いでチーム2位にランクしている。

 ここまで好投を続けている理由の1つは、このオフの取り組みだ。昨シーズン終盤あたりから投球に力強さが出始めていたらしいが、このオフはロサンゼルスで自主トレを行い、以前から知り合いだったオリオールズの内藤良亮ストレング&コンディショニングスコーチの指導の下、徹底的に下半身強化に取り組んだことで、真っ直ぐの球速は上がり、さらに生命線のツーシームのキレも増すことに成功している。被打率が昨年(.225)を下回る.205ということからも、今シーズンの安定度が理解できるだろう。村田投手自身も「また新しいスタイルができてきました。米国の時よりも良くなっていると思います」と、手応えを感じている。

 だからといって村田投手が日本ハムの先発陣を牽引するエースというわけではない。ここまでの起用法を見る限り、主力先発陣としてローテーションを守るのはマルティネス投手の他、有原航平投手、加藤貴之投手、高梨裕稔投手、上沢直之投手──であり、村田投手は彼らの穴を埋める“第6の男”という立ち位置だ。ここまでもチームのスケジュールに合わせ1軍と2軍を行き来している。だが今の状況こそ、まさに村田投手が歩んできた野球人生そのものなのだ。これまで彼はチーム事情に振り回されながら脇役を演じ続け、その中で少しずつ成長し続けた投手といえる。

 2007年に巨人からドラフト1位指名されたものの、1軍登板を果たせないまま2010年に戦力外になった。そのオフにインディアンスとマイナー契約を結び活躍の場を米国に移したが、1年目は25歳(5月には26歳になっている)ながら1Aスタートで、しかもリリーフか先発かも定まっていない状況だった。どう考えてもインディアンスが村田投手に大きな期待を寄せているとは思えなかった。

 先発に定着したのは米国3年目の2013年から。しかも2014年まではチーム事情に合わせて2Aと3Aを往復するという落ち着かない中で登板を続けるしかなかった。さらにはオフになると毎年ウィンターリーグにも参戦し、休むことなく実戦を積み重ねていった。そうした中でツーシーム習得に成功し、2015年シーズンは3Aに定着。インターナショナルリーグで最多勝のタイトルを獲得し、メジャー初昇格も果たしている(ただしインディアンスがダブルヘッダーを戦うことになったため認められた特別枠の“26番目のロースター”として緊急先発した1日だけの限定昇格だった)。

 しかしどんなに活躍しようとも村田投手に対するインディアンスの姿勢は変わることはなかった。2016年シーズンは若手有望投手を先発に起用したいという理由でローテーションから外された。結局そのシーズンはもう1人の先発候補投手と一緒にイニングを分け合いながらリリーフ登板を続けながら、ローテーションの谷間で先発を任されてきた。現在の日本ハムの状況と非常に類似していないだろうか。

 すでに33歳の村田投手は将来を嘱望される若手有望選手ではない。だがインディアンス時代に彼は与えられた役割の中で自分のやれること、やるべきことを考えながら前進してきたからこそ、再び逆輸入投手として日本球界に戻ってこられた。そして昨年は巨人時代には果たせなかった1軍のマウンドに立ち、今年はさらに投球を進化させているのだ。

 これからも村田投手が“エース”と呼ばれる存在になることはないだろう。だが彼の実績が証明しているように、時として主役以上の働きをしてくれる名脇役になれる投手なのだ。2011年から取材してきた身として、今年の村田投手は今後さらにその本領を発揮してくれそうな気がしてならない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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