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高校スポーツのダブルスタンダードはいつまで放置され続けるのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
京都文教高校バスケ部員を指導する内海慎吾選手(京都ハンナリーズ提供)

 Bリーグは2017-18シーズンの全日程が終了しオフシーズンに突入した。各チームともに来シーズンに向け、地元でプロモーション活動やコミュニティ活動を開始しているようだ。

 そんな中、京都ハンナリーズのキャプテン、内海慎吾選手が地元の京都文教高校のバスケ部員を相手にクリニックを開催したことを、チーム公式サイトで紹介している。内海選手といえば、浜口炎HCが「若い選手にプレーだけでなく試合までの準備や試合に臨む姿勢も含めて彼(内海選手)の真似をしなさいと話します」と全幅の信頼を寄せるほどの理想的なバスケ選手だ。クリニックに参加した選手にとって、内海選手と過ごした時間は刺激的で有意義だったことは容易に想像できる。

 もちろんこれは京都ハンナリーズや内海選手に限ったことではなく、バスケ界では日常風景でしかない。だが残念ながら高校スポーツでは、今でもプロアスリートとの交流が厳格に禁止されている競技も存在している。いうまでもなく高校野球だ。同じ高校スポーツという枠組みの中で、プロアスリートと交流できる競技とできない競技が混在しているということに矛盾を感じないのだろうか。

 これはバスケに限ったことではない。Jリーグ関係者に確認したところでは、サッカーでもJリーグの現役選手たちが出身高校などで臨時コーチとして指導することは珍しいことではないし、積極的にアマチュア・サッカーとの交流が行われているようだ。サッカー全体の発展を考えれば当然だろう。

 そもそも野球界でプロとアマチュアの交流が禁止されるようになった頃、プロスポーツは野球ぐらいしか存在しなかった。だが今やJリーグ、Bリーグのプロリーグが登場し、今後は卓球でもプロリーグが誕生しようとしている。さらにラグビー、バレーボール、アイスホッケーなどでもプロ契約選手が確実に増えている。今後他競技ではプロアスリートの交流がさらに拡大していくことだろう。

 高校スポーツの本質は、学校教育の一環としてスポーツを通じて人間的成長を促していく場であるはずだ。文科省が平成25年5月にまとめた『運動部活動での指導のガイドライン』でも、「スポーツの技術等の向上のみならず、生徒の生きる力の育成、豊かな学校生活の実現に意義を有するものになること」であり、「生徒の自主的、自発的な活動の場の充実に向けて、運動部活動、総合型地域スポーツクラブ等が地域の特色を生かして取り組むこと、また、必要に応じて連携すること」が理想としている。つまり内海選手がクリニックを介したように、地域に密着したプロスポーツ組織が高校の部活を支援することは、ある意味文科相が提唱する理想像ともいえる。高校野球が隔離された存在であることの方がむしろおかしいと考えるべきだろう。

 今回日大アメフト部の悪質タックル問題でもそうだったが、大学スポーツが各競技ごとにバラバラに統轄されていることで、迅速な対応ができず問題を混迷化させる要因にもなっていた。本来なら大学以上に部活動が根付いている高校スポーツこそ、競技ごとに統轄するのではなくスポーツ全体を通して選手たちに平等の機会を与えていくべきではないか。

 高校スポーツの世界で現在のようなダブルスタンダードが放置され続けるのはやはり釈然としない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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