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より透明性を求めたいBリーグの表彰選手選考システム

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
新人賞を逃した伊藤達哉選手だが得票差はどれほどあったのか…(筆者撮影)

 Bリーグは2017-18シーズンの全日程を終了し、5月29日に『B.LEAGUE AWARD SHOW 2017-18』を開催し、シーズン最優秀選手賞(MVP)をはじめ各賞受賞者が発表された。

 残念ながらイベントに参加することはできなかったが、開催直前にリーグから各賞受賞者のリストがメールで送られてきた。そのリストに目を通し、新人賞に選ばれたのがアルバルク東京の馬場雄大選手だったことにちょっと驚きを覚えた。

 馬場選手の今シーズンの活躍を疑問視しているのでは決してない。特別指定選手として大学4年ながらBリーグに挑戦し、着実にチームの主力に台頭し王者獲得に貢献した。個人成績も1試合当たり20分46秒の出場で、8.4得点、3.8リバウンド、1.4アシスト、1.0スティール──とオールラウンドの活躍を見せている。また日本代表にも名を連ねるなど、その功績は申し分ないものだった。

 だが馬場選手に優るとも劣らない成績を残している選手がいれば話は変わってくる。今シーズンは京都ハンナリーズを中心に、大阪エヴェッサ、滋賀レイクスターズ、西宮ストークス──の関西を拠点にするチームの取材をする機会が多かったのだが、これらのチームの中で京都の伊藤達哉選手は同じ新人選手として特筆すべき活躍をみせていた。

 彼の個人成績は1試合当たり25分16秒に出場し、16.0得点、1.0リバウンド、5.0アシスト、2.5スティール──と馬場選手と十分に渡り合える数字を残している。だがそれ以上に見過ごしてはならないのは、馬場選手は昨年末の試合で負傷し、今年4月までほとんど出場することができず計40試合の出場に留まっているのだが、伊藤選手は開幕から先発PGを務めチーム初のチャンピオンシップ進出に貢献するとともに、計56試合に先発出場を果たしているのだ。この両者の差は十分に考慮に値すべきものだと考えている。だからこそ馬場選手の選出に驚きを感じてしまったのだ。

 Bリーグの公式サイトで公表されているように、新人賞に関してはベストファイブと同様に、B1ヘッドコーチ、B1登録選手、メディア──による投票で最多得票数を獲得した選手が選考されるシステムになっている。メディアに関してはBリーグから投票要請を行ったメディアが対象で、正確な数は公表されていないがヘッドコーチおよび登録選手の総数より少ないということだ。

 今シーズン初めてBリーグを取材して感じたことは、メディアは基本的に地元のホーム試合を取材するだけで、近場以外で遠征試合に帯同することはほとんどないといっていい。スケジュールの関係上、他地区のチームとは「ホーム&アウェイ」が組まれていない場合もあり、シーズンを通してホーム全30試合を取材したとしても全18チームを網羅することはできない。どうしても他地区チームの情報は薄くなってしまい、投票をする上で頼ってしまうのがネットに確認できる個人成績や記事になってきてしまう。そうなると、メディアの露出度が高い選手が有利になってしまうのは否めないのではないだろうか。

 だからと言って投票結果に文句を言うつもりは毛頭ない。馬場選手が最多得票数を獲得した事実は紛れもない事実だ。そうではなく、今回のように複数の有力候補がいる場合はすべての人たちが素直に納得するのは難しいのだから、選考に透明性をもたらすためにも投票結果そのものも公開すべきではないだろうか。

 例えばNBAでは、各賞はプロバスケットボール記者協会(PBWA)に所属している記者の投票によって選考されるのだが(Bリーグとは違い、それぞれの記者が1位から3位までの選手を選び、1位票は5ポイント、2位票3ポイント、3位票1ポイントというかたちで合計ポイントで争われる)、受賞選手のみならず、投票者の数、投票者の名前及び所属先、投票者が選んだ選手名、投票された全選手名と獲得ポイントの内訳──とすべてのデータが公表されるのだ。これほど公明正大な投票はないだろう。

 とりあえずBリーグ広報に確認したところ、今回の投票結果を公にする考えはないとした上で以下のように話してくれた。

 「(現在の選考システムは)メリットもあれば、デメリットもあると感じています。透明性という点で来シーズンは投票結果の公開について検討していく方向です」

 今回投票に参加したメディアの1人として、やはり伊藤選手がどれほどの差で馬場選手に敗れたのか確認したい気持ちは強い。実は京都のチームスタッフも、伊藤選手の落選に相当のショックを受けている。たぶん京都ブースターもその思いは同じだろう。せめて気休めでもいいから投票結果だけは僅差であったことを祈りたいはず。それを確かめるためにも、同じく投票結果を知りたいと感じているのではないか。

 是非Bリーグは前向きに検討してほしいものだ。 

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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