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日大アメフト部問題を契機に各大学に米国流アスリート局設置の検討を

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
アメフト部員の悪質タックルで的確な対応ができたとはいえなかった日本大学(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 日大アメフト部問題は今や日本国中の関心事になってしまった。同部員による悪質タックルの動画がSNS上で公開されていて以降、ここまで問題が大きくなるとは誰も想像していなかったことだろう。

 逆にいえば、日大の対応がもっと的確で迅速であったならば、ここまでの騒ぎにはなっていなかった。選手自らが顔をさらした上で謝罪会見を開くまで何の動きもせず、いざ会見を開いても大学アメフト界でしか通じない論理で釈明を続ける前監督とコーチ。さらにその会見をしきった司会進行役が謝罪会見にもかかわらず、不遜な態度で切り上げようとする広報部職員。そして批難が集中した事態を沈静化させることだけが目的で、当該事案に関する一切の追加情報をもたないまま“手ぶら”の状態で記者会見を行った学長。どう考えても日大自らが事態を悪化させてしまったにすぎない。

 今回の日大の対応で明らかになったのは、アメフト部と日大本体がまったくバラバラだったということだ。もし仮に日大本体がアメフト部を統轄するかたちで動いていたのなら、最初に提出した回答書について関西学院大学が疑念を抱く会見を開いた段階で、アメフト部に任せきりにせずに本体として聞き取り調査を行い、その上で選手が会見を開く前に謝罪及び現状説明会見を開くことができたはずだ。

 もちろん会見には前監督とコーチも出席させるが、加害者側に回った当事者の説明では不十分なのは明らかで、聞き取りを行った本体の責任者がすべての説明を行っていれば、ここまでメディアから批判されることもなかったはずだし、関西学院大学に再提出した2回目の回答書でさえ当該選手の聞き取りを行わないという不手際も生じなかっただろう。そもそも第三者委員会を設置して真相究明を目指すということ自体、組織自体が自浄能力を失っていることを露呈するという恥ずべきことではないか。

 ただこれは日大に限ったことではないように思う。どの大学も体育会組織はある意味“伏魔殿”のような存在になっている。同じ大学でも競技によってバラバラだし、大学との繋がりよりもOB会との繋がりが濃い。チームが使用する用具やユニフォームなども各競技ごとに監督やOB会の関係によってメーカーと契約しているのがほとんどだ。

 もし米国の大学のように、学内にすべてのスポーツ競技を統轄する「アスレティック・ディパートメント(いわゆるスポーツ局)」が設置されていれば、何か問題が起こった際は大学本体の責任部局としてスポーツ局が中心になって対処することができるようになっていただろう。

 しかも米国の場合、スポーツ局の責任者である「アスレティック・ディレクター」は各チームの監督、コーチの人事権も掌握している。スポーツ局が求める指導方針に合わない指導者たちがいれば、アスレティック・ディレクターの意思で解雇することもできるのだ。今回の日大アメフト部のケースでも、アスレティック・ディレクターが指揮して聞き取り調査を行っていれば、もっと中立的な立場で判断できていただろうし、前監督が辞職を表明する前にもっと厳しい処分を下すこともできていたはずだ。

 自分がこれまで取材してきた限り、早稲田大、筑波大、近畿大、大阪体育大、武庫川女子大──などでが(あくまで自分が知る限りでもっと多いはずだ)、体育会組織を統轄するスポーツ局に類似した機関を設立しているようだが、米国のように監督、コーチの人事権まで握っておらず、まだ各競技ごとの独立性が高いようだ。

 すでに本欄の『日大アメフト部問題で本当に考えるべきこと』で指摘しているように、今回の問題は日大アメフト部に限ったものではなく、今でもアマチュア・スポーツ界には“熱血指導”、“スパルタ教育”の名の下に、選手の意思や人格を無視したパワハラまがいの指導をする監督、コーチが少なくない。そうした彼らが間違った判断をしてしまえば、第2、第3の宮川泰介選手が生まれてしまう危険性があるのだ。そうした監督、コーチをしっかり管理する上でもスポーツ局は有効だ。

 いずれにせよ関西学院大学の被害学生が試合に復帰できたものの、日大アメフト部はさらに混迷を極めている。近々発表される部員たちの総意をまとめた声明文では、改めて内田前監督の主張が完全否定される内容になると予測されている。選手たちからそんな告発がされるような監督、コーチを好き放題させていた日大の責任は重大といわざるを得ない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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