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起死回生を狙う栃木ブレックスでジェフ・ギブスが果たしている責務

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
昨年12月に復帰後チームを上向かせたジェフ・ギブス選手(筆者撮影)

 Bリーグ元年となった昨シーズンの初代王者に輝いた栃木ブレックスだが、今シーズンは開幕から苦戦を強いられてきた。昨年11月には今シーズンから指揮をとっていた長谷川健志HCが体調不良を理由に退任を発表し、急きょ安齋竜三ACがHCに就任することになるゴタゴタもあり、チームは長らく地区最下位に沈んでいた。

 しかし現在のチームは明らかに苦境を脱している。シーズン後半戦はここまで8勝4敗と勝ち越しに成功。強豪ひしめく東地区で5位ながら、チャンピオンシップ進出を狙えるワイルドカード争いを演じる位置まで上がってきた。まさに起死回生ともいうべき復活劇ではないだろうか。

 チーム浮上と時を重ねるように、チームに加わった選手がいる。昨シーズンの優勝メンバーの1人、ジェフ・ギブス選手だ。チャンピオンシップ・ファイナルで左足アキレス腱断裂という重傷を負い今シーズンの開幕には間に合わなかったが、昨年12月20日のサンロッカーズ渋谷戦でようやく戦列復帰を果たしたのだ。

 「復帰した最初の3試合くらいはしっくりこなかった。でもそれ以降は昨年チームでしてきたように、ベンチから途中出場しチームにエナジーと身体的な強さをもたらすように心がけた。先発するようになってからも試合開始からチームを活気づけられるようにしているよ。

 それと復帰した最初の頃は新しいチームメイトがいるし、昨年と比較しながら彼らがどんなプレーをするのかを見極めるようにして、どうやってチームにフィットしていくかを考えるようにしていた。やはりそれも3試合目以降からかな。チームが勝つためにしっかり貢献していけるような感じになっていったよ。

 自宅でリハビリをしている時からチームの試合はチェックしていたし、新しいチームメイトのプレーも観察していた。チーム合流後も各選手たちと話をしながらどんなプレーをしたいのか確認できたし、たぶん1週間くらいでチームとある程度の意思疎通はできたと思う」

 ギブス選手が合流後のチーム成績が11勝6敗(それ以前は10勝13敗)ということからも明らかなように、彼の復帰がチームのカンフル剤になっているようだ。これほどまでにチーム状態を一変させてしまったギブス選手の存在感について、安齋HCはどのように見ているのだろうか。

 「すべての面において力強さだとかエナジーの出し方っていうのは、日本に来てから彼をずっと見てきていますけど、日本に来ている外国人の中でも素晴らしいものを持っていると思います。あとは経験があるので、チームの安定という意味ではいいスクリーナーですし、いいフィニッシャーですし、オフェンスの部分でもディフェンスの部分でもあの身長で大きい選手を相手に1人で頑張って守ったりできる選手なので、チームとしての底上げと安定というのは彼によってもたらされると思います」

 安齋HCの説明からも窺い知れるように、ギブス選手はあらゆる面でチームをレベルアップし、安定させられる存在だということだ。改めて栃木ブレックス内で彼の存在感の大きさを確認できた思いだ。

 その上半身を見ただけで身体的な強さは理解できるが、身長188センチは今や日本人バスケ選手の中でも決して大きくない存在だ。しかも出身大学はNCAAディビジョン3に所属するバスケとしては二流校以下。決して米国でも注目されてきたような選手ではなかった。それでも欧州リーグを渡り歩いた後2010年にトヨタアルバルク(現アルバルク東京)入りするため来日すると、以降ずっと日本を舞台に活躍を続けてきた。現在も37歳という年齢になりながら、超名門校出身や元NBAの200センチ超えのビッグマンたちと台頭に渡り歩いている。

 「(ビッグマンと対峙する時は)いつもフットボールをやるようなメンタリティで臨んでいる。これまでも身長がない分自分のところを狙われてきたし、様々な経験を重ねながらどうすればいいかも学んできた。根本は相手選手がいきたい位置にいけないように押し込まれないようにすること。とにかくフットボールのメンタリティで肉体勝負を挑んでいる」

 現在のBリーグには様々なタイプのビッグマンが揃っている。ダバンテ・ガードナー選手(新潟アルビレックスBB)やジョシュア・スミス選手(京都ハンナリーズ)のような重量タイプもいれば、アレックス・カーク選手(アルバルク東京)やキャビン・エドワーズ選手(千葉ジェッツ)のようにコート上を動き回り内外からシュートを狙えるオールラウンド・タイプもいる。身長では劣っているものの、ギブス選手はそうした多種多様なビッグマンたちに対応できる経験と運動能力を備えているのだ。

 しかしギブス選手が加わりチーム状況が向上したとはいえ、まだ盤石とまでは言い切れない。シーズン後半戦も4敗したのはシーホース三河と京都ハンナリーズに連敗したもの。まだ地区上位に位置しているチームとの差は確実にある。それは安齋HCもしっかり認識している。

 「やるべきことだとかそういうことはしっかりできつつあるというか、成長はしていると思いますけど、京都さんだったり、これから東地区(のチーム)といっぱいあたりますけど、そういう強いチームとあたった時にどういうことができるかというところが、まだまだ京都戦で課題になったことがいっぱいあったので…。そういう意味では成長できる部分がいっぱいあると思うし、ここで頭を下げずに全員で1つずつ成長していって、どんどんいいチームになっていければいいと思います」

 まだギブス選手が合流してから1ヶ月半しか経過していない。もちろん戦術面を含め、チームが改善し成長できる伸びしろは十分になる。安齋HCが指摘するように、残りシーズンに数多くの同地区対決を控えているだけでに、このまま立ち止まっているわけにはいかない。もちろんギブス選手も十分の覚悟を持って試合に臨んでいる。

 「今は自分たちにとってすべての試合が重要になってくる。特にすべてのチームが勝率5割を超える地区内の対戦は尚更のことだ。1試合1試合がチャンピオンシップのワイルドカード進出に繋がってくるんだ。

 ただ自分たちにある程度の自信も抱いている。現在プレーできていること、さらにプレーすべきバスケができていれば、チャンピオンシップに進出できてもおかしくないと思っている。とにかく今は危機感を持って、すべての試合を勝ちにいくつもりだ」

 残りシーズンも残り2ヶ月。ギブス選手と栃木ブレックスが繰り広げるまさに生き残りを懸けた死闘に注目したいところだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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