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日本代表で唯一無二の存在アイラ・ブラウンが抱く日本人としての覚悟

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
日本代表でペイントエリアを一手に担うアイラ・ブラウン選手(筆者撮影)

 “リバウンドを制するものはゲームを制す”

 井上雄彦氏の不朽の名作『スラムダンク』に登場するあまりにも有名な名台詞だが、リバウンドを制することで相手チームのオフェンス機会を制限する一方で、自チームのオフェンス機会を増やすことができることを考えれば、やはり間違いなくバスケの真理といえるだろう。

 そこで現在のBリーグに目を転じてみよう。リバウンド部門(平均リバウンド数)で上位10人に名を連ねているのはすべて外国人選手ばかり。言うまでもなくリバウンドは外国人選手に支配されている。どのチームも外国人選手にビッグマンを求めて補強しているのだから仕方がないことではあるが、国際基準ではサイズで劣るという日本バスケの弱点は今もって解消できていないのが実情だ。

 バスケ日本代表は昨年11月からFIBAワールドカップ2019アジア地区1次予選を戦っている。残念ながらフィリピン、オーストラリアに連敗するという苦しいスタートになったが、やはりリバウンド戦でも相手チームに押さえ込まれている。フィリピン戦では46-48とある程度競り合えたものの、オーストラリア戦では21-48と完全に制圧されている。

 そんな日本代表の中で、リバウンド戦で奮闘を続けているのがアイラ・ブラウン選手だ。フィリピン戦でチーム最多の15リバウンド、オーストラリア戦でも同じくチーム最多の8リバウンドを記録。出場時間においても両試合ともチーム最多の32分以上に及んでおり、まさにリバウンドにおいて日本代表の“砦”ともいえる存在だ。

 「自分は代表チームを手助けできると感じていた。彼らは明らかにサイズと肉体的な強さが不足していたので、自分が加わってチームにエネルギーを与えることで、選手たちにプレーする楽しみを与え、国を代表して戦うことの喜びを感じるというポジティブな流れをつくりたいと思ったんだ。今では選手みんなが代表に選ばれることに誇りを感じているし、2020年を目指して真剣に取り組んでいる。

 日本代表で戦うことはこの上なく光栄なことだと思っている。確かに自分は外国人であるけど、今では日本国籍を取得し日本が自分の新しい母国なんだ。どんな選手にとっても母国を代表して戦うことに喜びを感じるものだ。こうして自分もその機会を与えられ、日の丸の入ったユニフォームに袖を通す度に国のためにすべてを出し切ろうとしている」

 2011年にbjリーグの富山グラウジーズ入りしたのを機に、ずっと日本でプレーを続けてきたブラウン選手。2016年8月に日本国籍を取得し、現在は琉球ゴールデンキングスに在籍しながら日本代表選手として活躍を続けている。193センチという身長は日本代表の中でもずば抜けて大きいわけではない。しかし筋肉で覆われた上半身からも想像できるように、ペイントエリアで当たり負けしない力強さと身長をカバーする身体能力を備えている。現在の日本代表にブラウン選手の代わりを務められる選手は存在しないといっていい。

 しかしブラウン選手1人だけでは、これからも他国の代表チームとリバウンドで対等に渡り合うのは難しいだろう。だがその一方でブラウン選手のような選手を急きょ仕立て上げるのも簡単なことではない。今はブラウン選手に頼りながら、現有勢力で戦っていくしかないのだ。それでもブラウン選手はまったく悲観する様子はない。

 「我々は才能と技術を備えた選手が揃っているし、素晴らしいスコアラーもいる。比江島だったり、田中だったり、富樫だったり、竜青(篠山)もそうだね。我々はすべてのポジションで良い選手が揃っていると思っている。譲次(竹内)はポストで素晴らしい技術を持っているし、天傑(張本)は突破力を有している。とにかく素晴らしい選手が集まっているんだ。あとは国際試合はBリーグとは違うということをしっかり認識して戦っていくことだ。国際試合はより以上に肉体的強さが必要になってくるからね。ラマス・コーチも肉体的な強さの必要性を説いているし、我々もそれを理解した上で今はしっかり取り組んでいる。

 もちろん(ペイントエリアで孤軍奮闘するのは)タフだ。だが自分の役割をしっかり受け入れている。確かに自分より身長の高い選手はいるけど、自分は肉体的に負けていないし、下半身の安定感でも優っている。相手は自分の上からシュートを狙ってくるだろうが、簡単に打たせるつもりはない。とにかくリバウンドを含めチームが勝つために必要なことはすべてやるつもりだし、常にチャレンジしていく覚悟だ」

 2月22日にチャイニーズ・タイペイ戦、25日にフィリピン戦を控えている日本代表。やはりブラウン選手のペイントエリアの活躍なくして勝利を望むことはできないだろう。彼がコート上で今まで以上に躍動する姿を期待するしかない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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