大谷報道で米国からバトンを受け取らない日本のメディア

大谷翔平選手の右ヒジに関する報道はこのまま沈静化するのか?(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 エンゼルス入りした大谷翔平選手の入団会見後に、米国メディアのスクープ報道で大谷選手が10月に右ヒジにPRP注射を受けていたことが発覚し、大きな関心を集めたのは周知の通りだ。報道に対しエンゼルスや大谷選手の代理人であるネズ・バレロ氏が大谷選手の右ヒジに何の問題もないことを強調したことで、何となく収束の方向に向かっているかのように見える。

 だが日本ハムからMLBに提出されたメディカル・レポートで、大谷選手が右ヒジの内側側副じん帯に「軽度の捻挫(もしくは痛み)」があり、PRP注射を受けたと報告されていた事実に変わりはない。果たしてエンゼルスと代理人の説明で、どれだけの人々が納得できているのだろうか。残念ながらPRP注射を受けた大谷選手本人、またPRP注射を打つことを判断した医師からの説明が一切なされておらず、どうしても消化不良の感は否めない。

 今回の一連の報道について日本では、あくまで“米国の報道”として記事に書かれた内容をそのまま報じるだけだった。最終的にスクープ報道を受け、MLBがチームからの情報漏洩について調査に乗り出すような騒ぎになっているが、大谷選手がPRP注射を受けたという事実が発覚してしまった以上、メディアの立場からすればやはり当事者の説明は必要になってくるはずだ。そして大谷選手とPRP注射治療を実施した医師が日本にいるのだから、本来なら今度は日本のメディアが米国からバトンを引き継ぎ、追加取材を行うべきなのではないだろうか。

 今年本格的にNPBの取材をしていて、選手の負傷についての対応がMLBとはかなり違うことを実感した。MLBでは選手が試合中に負傷交代した場合など、すぐに負傷について詳細(負傷箇所、負傷名、負傷具合など)がメディアに報告されるのが通常だが、NPBではかなりセンシティブに扱われ、なかなか負傷の詳細が明らかにされないケースもあった。それだけ日本は選手の負傷について取材するのが難しい環境にあるのかもしれない。

 ただSNSの発達で情報は世界中で共有されるようになり、今では米国メディアも最新情報を求め、日本メディアの報道をチェックする時代になった。今回のスクープ報道が出た時点で、多くの米国メディアもエンゼルス側の説明だけでなく、当事者である大谷選手サイドの説明が欲しかったはずだ。当事者からエンゼルスの説明と同じ「右ヒジに何の問題もない」という声を聞くことで、本当の意味で一連の報道を決着させることができるからだ。

 そうでなくても大谷選手は来年のキャンプでMLB最大の関心事の1人であり、日本ばかりでなく米国からも多くのメディアが集結するのが必至な状況だ。現状のままで大谷選手の右ヒジに関して完全に疑念を払拭できている米国メディアはいないだろうし、キャンプイン後再び右ヒジ問題が再燃し、大谷選手は直接説明を求められることになる可能性がある。きれいごとに聞こえるかもしれないが、今のうちに日本メディアが大谷選手や医師から説明を聞き出し、それを報道を通して米国にキックバックすることで、キャンプ中の大谷選手の負担を軽減することに繋がらないだろうか。

 13日に本欄でも、スクープ報道の一連の流れと、大谷選手の右ヒジの状態に考察した記事を公開している。これでは詰めが甘いのは十分承知しているのだが、とりあえず個人的な取材でPRP注射に対する考え方が日米で違っているという事実を紹介した上で、大谷選手の右ヒジは大きな問題はなく、PRP注射を打った理由付けとして「軽度の捻挫」という診断を記したのではと推察している。だからこそ一連の報道でこれ以上大谷選手を患わせないためにも、当事者たちの説明を公にした方がいいと感じているのだ。

 本来なら他人に任せるのではなく、自ら足を運んで大谷選手や医師の取材を求めていくべきなのだろう。しかしフリーの身では時間的にも経済的にもかなりの制限がある。何とかならないものだろうか…。

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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