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大谷翔平は100年ぶりにMLBで二桁勝利&本塁打を達成できるのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
ベーブ・ルース選手以来100年ぶりの二桁勝利&本塁打に挑戦する大谷翔平選手(写真:つのだよしお/アフロ)

 新ポスティング制度が大筋合意し、12月1日に実施されるオーナー会議での正式承認を待つばかりとなった。

 正式承認と同時にいよいよ大谷翔平選手の獲得競争が本格的にスタートするわけだが、大谷選手に関しては特例措置が設けられ、交渉期間が21日間(通常は30日間)に短縮させられたので、クリスマス前には新たな所属先が決定することになる。12月中は日米両国で大谷選手一色で盛り上がることになりそうだ。

 すでに米国でも大谷選手の所属先に関して様々な予測記事が次々に登場しているが、結局は予測の域を超えるものではない。急きょ契約金を上乗せできるような対策を講じたチームも登場しているが、最終的には起用法や育成法で大谷選手を納得させるものを提示できるかが大きなカギを握ることになるのは間違いない。MLB挑戦を正式表明した際も、大谷選手は日本ハムで5年間続けてきた二刀流をMLBでも続行することに強い意志を示しており、やはりどれだけ大谷選手の二刀流をサポートし、理想的な起用プランを考案できるかにかかってくるのだろう。

 日本で大谷選手の二刀流をここまで有名にしたのは、2014年シーズンに達成した二桁勝利&本塁打だろう。MLB史上最大の伝説選手であるベーブ・ルース選手以来の快挙として大々的に報じられたのは記憶に新しいところだろう。もちろん米国でもすでに大谷選手は二刀流として認知されており、多くのファンが投打での活躍に期待を寄せている。奇しくもルース選手が同記録を達成したのは1918年のこと。来シーズンの大谷選手は実に100年ぶりにMLBの舞台で記録達成に挑むことになる。

 普通に考えるならば、大谷選手が二刀流挑戦を許してくれるチームと契約し、シーズンを通して怪我なく二刀流を続けられるのであれば、ほぼ確実に二桁勝利&本塁打を達成できるはずだ。MLBの公式戦は162試合とNPBよりも試合数が増加するわけだから、その分大谷選手の登板数、打席数も増えることになるので、必然的に達成する確率も上がってくる。

 特に二桁本塁打に関しては、まったく問題ないだろう。それは昨年オフに実施された侍ジャパンの強化試合で明らかだ。打者のみで参加した大谷選手はオランダ代表とメキシコ代表の投手(中には現役メジャー投手も含まれる)相手に、しかもMLB公認球を使用しながら、東京ドームの天井裏に打球を叩き込むほどの規格外のパワーを見せつけた。あの飛距離は間違いなくMLBでもトップクラスであり、MLBのどの球場でも本塁打を狙えるパワーだ。日本ハムの時のように打率が残せるかは別だが、本塁打を10本以上打てるパワーは現時点で十分に備わっている。

 やや不安が残るのは二桁勝利だ。これまで多くの日本人メジャー投手たちが苦労してきたように、公認球やマウンドの違い、登板間隔を含めた起用法などMLBの新たな環境にどこまで適応できるかに関わってくるだろう。ただシーズンを通して怪我なくローテーションを守ることができれば、最低でも25試合以上は登板できるので、勝率4割で10勝に到達できる計算になる。大谷投手にとって決して難しいペースではないはずだ。もちろん勝利投手になるには打線の援護やリリーフ陣の支援も必要になってくるので、こうした不確定要素は大谷選手のコントロールできない部分ではある。

 ここ最近の報道を見る限り、大谷選手が二刀流に挑戦する場合、DH制のあるア・リーグと、投手も打席に立つナ・リーグではどちらが有利かが大きな議題になっている。もちろん日本ハムと同じようなスタイルで二刀流を続けるのであれば、ア・リーグの方が絶対的に有利だろう。しかし起用法を工夫すれば、ナ・リーグでも十分に二刀流はできるはずだ。あくまでチームが考案するプラン次第だろう。

 そもそも1918年にルース選手が二桁勝利&本塁打を達成した当時はDH制が採用されていなかった。つまりルース選手は投手として登板した試合でも打席に立ち、登板していない試合では左翼、中堅、一塁として出場していた。大谷選手以上に厳しい環境の中で二刀流を行い、投手として20試合に登板し、13勝7敗、防御率2.27を残し、さらに野手として72試合(投手と合わせて計92試合)に出場し、打率.300、11本塁打、61打点を記録しているのだ。しかも当時のシーズンは126試合制だった。

 ただルース選手の本格的な二刀流挑戦は1918年と1919年の2シーズンのみだった。ヤンキースに移籍してからは打者に専念し、ヤンキース在籍時の15シーズンでわずか5試合の登板に留まっている。ヤンキースのチーム方針に因るところが大きいと思うが、それと同時に二刀流を続けること自体も選手への負担が大きいということなのだろう。

 ちなみにルール選手にとって最後の二刀流挑戦となった1919年シーズンでの彼の年齢は24歳だった。偶然ながら大谷選手も来シーズンに24歳を迎える。二桁勝利&本塁打達成もさることながら、大谷選手がどれだけ長く二刀流を続けられるのかも興味が尽きないところだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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