大谷翔平がマイナー契約しか結べなくなった背景

新ポスティング制度合意が間近に迫り本格的にMLB挑戦に動き出す大谷翔平選手(写真:つのだよしお/アフロ)

 メディアが報じているように、新ポスティング制度が合意に向け最終段階に入った。すでに交渉に当たったMLBとNPBの間では大筋合意しており、あとは選手会の承認を得るだけになっている。

 こちらも報じられていることだが、11月1日に旧制度が失効しているにも関わらず、ここまで新制度が合意できなかったのは選手会が異議を唱えていたためだ。その根底にあるのが大谷翔平選手だ。昨年12月から有効になった新労使協定の関係で、大谷選手は限度額内の契約金とマイナー契約しか結べないため、所属球団(日本ハム)が選手以上の金額を得ることを問題としていたためだ。だが大谷選手が新たに契約したネズ・バレロ氏が選手会に大谷選手の意向を説明したことで、選手会の姿勢を変えることに繋がったと見られている。

 そもそも大谷選手が従来通りダルビッシュ有投手や田中将大投手のように大型契約を得ることができていれば、ここまで新ポスティング制度が揉めることはなかった。実は旧労使協定では大谷選手はポスティング制度がどんな内容でも大型契約を結ぶことができていたのだ。すべては新労使協定でルール変更されてしまったためだ。

 まず新労使協定では、大谷選手は外国人選手契約に適用される「インターナショナル・ボーナス・プール」の対象選手になってしまう。そうなると各チームは与えられた限度枠内(475万~575万ドル)の契約金とマイナー契約しか提示することができない。しかしMLBが認める外国リーグに6シーズン以上所属した25歳以上の選手はこのプールの対象外となり、FA選手として大型契約を獲得することができる。現在の大谷選手はNPB在籍5年で23歳のため、プール対象外になれなかったというわけだ。

 これが旧労使協定だとプール対象外選手は“外国リーグ在籍5年以上で23歳以上”だった。繰り替えすが旧労使協定なら、大谷選手はこのオフに問題なく大型契約を結ぶことができていたのだ。それではなぜMLBと選手会はルール変更に合意したのだろうか。

 その背景にあるのがここ数年のキューバ選手のMLB流入状況だ。これまでホゼ・フェルナンデス投手、アロルディス・チャプマン投手、ヤシエル・プイグ選手、ヨエニス・セスペデス選手、ホゼ・アブレイユ選手らが大型契約を結び鳴り物入りでMLBにやって来た。そして彼らは評判通り“即戦力”として実績を残していった。

 だがその一方で、ルスネイ・カスティーヨ選手やヤシエル・シエラ投手のように同じく大型契約を結びながらメジャーに定着すらできない選手たちが数多く存在している。中にはルルデス・グリエル選手のように23歳の誕生日を待って大型契約を獲得しながら、期待通りの活躍ができていない選手もいる。結局プール対象外の選手として大型契約を結んだとしでも、即活躍できる選手は限られてくることが明らかになってしまったのだ。

 またMLB界に沸き上がった“キューバ人気”も影響し、プール対象の選手でもレッドソックスはヨアン・モンカダ選手に総額6300万ドル(半額はMLBへの支払い)、ドジャースはヤディア・アルバレス投手に総額3200万ドル(同)を支払うなど、若手キューバ選手に対して契約金の高騰化を招いてしまった。

 すでにキューバ人気もある程度沈静化した中、これらの反省を生かし、無用な投資を抑えて実績ある選手を見極めるために生まれたのが新労使協定のルール変更というわけだ。逆にいえばMLBは、大谷選手のような23歳で即戦力として活躍できる選手が登場するとを予測していなかったことになる(それと同時にNPBチームが25歳未満の選手にMLB挑戦を認めるとは思っていなかった側面もあるだろう)。それだけ彼はMLBにとっても“想定外”な存在ということだろう。

 ただすでに本欄でも解説しているように、ルール変更により多くのチームが大谷選手を獲得できる状況になったため、大谷選手としても希望にあったチームを探せるようになったのも事実だ。それだけ二刀流に挑戦できるチャンスも広がるということにもなる。

 もし大谷選手が来シーズンからMLBの舞台で大活躍をし、今後25歳未満でNPB選手がMLB挑戦するようなことになったら、プール対象選手の範囲が再び議論の的になるのは必至だろう。それだけ大谷選手のMLB挑戦は、いろいろな意味で球界全体に影響を与える出来事なのだ。

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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