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MLB挑戦を決めた大谷翔平はベーブ・ルースを現代に蘇らせることができるのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
元祖“二刀流”ベーブ・ルース選手はとてつもない成績を残している(写真:ロイター/アフロ)

 遂に大谷翔平選手が自らの口でMLB挑戦が表明した。高校時代から憧れ続けてきた夢の舞台にいよいよ挑戦することになった。

 ただ5年前の大谷選手とは考え方に大きな違いがあるように思う。当時の彼はMLBで二刀流をやろうなんて考えもしなかったはずだ。というのも大谷選手と直接面談を行っていたドジャースも、当時は投手一本で育成することを本人に伝えていたからだ。

 だが日本ハムがドラフトで強行指名し、二刀流という常識外の挑戦を提示したことで、大谷選手は新たな目標をみつけることになった。そしてこの5年間球界の常識を覆し続け、「大谷=二刀流」を不動の位置に押し上げた。11日の会見で「もう自分だけのものではない」と語っているように、今や大谷選手の二刀流はファンの期待、希望を背負うまでになっている。会見では終始控えめな発言に留まったが、「MLBでも二刀流を続けたい」という意志は明々白々だった。

 大谷選手のNPBでの5年間はMLB関係者の意識をも変化させた。今やドジャースを含め多くのチームが大谷選手の二刀流起用の可能性を示唆するようになり、“今のまま”の大谷選手を迎え入れようとしている。だが現在のMLBでも二刀流は常識外の挑戦であることに違いはない。今後はNPBと同じように、数々の批判や中傷と戦わなかればならないだろう。だがその一方で、二刀流は米国民にとてつもない夢を抱かせるものでもある。

 米国では大谷選手を「日本のベーブ・ルース」と形容している。野球ファンならずとも米国民すべてが認知している伝説の選手だ。通算本塁打714本を記録し、米国でも打者として認識されているが、レッドソックスに在籍していた1914~19年は大谷選手同様、いやそれ以上の二刀流選手だった。

 在籍6年間で打者として通算打率.308、49本塁打、234打点を記録し、1919年シーズンには本塁打(29本)、打点(113)の二冠王に輝いている。また投手としては通算89勝46敗、防御率2.19を残し、1916年シーズンには防御率(1.75)のタイトルを獲得しているほどだ。

 だがベーブ・ルース氏の活躍は100年も前の話だ。彼のプレーする姿を実際に観戦した人物などほんの数人しか生存していない。ほとんどの人にとってベーブ・ルース氏は、早回しの白黒フィルムで当時のプレーを確認するしかない歴史上の人物なのだ。つまり大谷選手がMLBで二刀流を挑戦することは、白黒フィルムの世界からベーブ・ルース氏を現代に蘇らせるこということだ。米国民にとっても、これほど夢

とロマンを抱かせてくれる選手は今まで登場してこなかった。

 ただし“中途半端な”二刀流であれば誰も納得したりしない。日本と同じように投打ともに一流のプレーを披露しなければ、誰もベーブ・ルース氏の再来だとは認めてくれないだろう。つまり大谷選手はMLBで二刀流を続ける限り、ずっとベーブ・ルース氏と比較され続けることになるのだ。

 果たして大谷選手はMLBの舞台で伝説を復活させることができるのだろうか。それが実現できた時こそ、大谷選手は彼が目指している“誰もが一番だと思う選手”になっているだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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