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ダルビッシュ有がMLB在籍6年間で残した功績を考える

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
MLB球界で6年間ずっと高い評価を受け続けたダルビッシュ投手(写真:代表撮影/USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 MLBで長年取材していて、度々耳にするフレーズがある。

 “as advertised”

 選手を評価する際に度々登場するものだが、意味は「前評判通り」とか「下馬評通り」といったところだ。もちろん選手に好評価を与える時に使われるものだ。

 1995年に野茂英雄投手がドジャース入りし全米を騒がすセンセーションを巻き起こしたことで、MLB球界は日本人選手の見方を一変させた。以来各球団は本格的に日本人選手のリクルートに乗りだし、高額契約を惜しむことなくスター選手たちと迎え入れた。しかし実際MLBでプレーした選手の中で“as advertised”という評価を受けた選手は数えるほどしか存在しないのが実情だろう。

 これまでも「NPB最強の速球投手」「NPB随一の長距離砲」「NPB最強のオールラウンド選手」等々、多くのスター選手たちが鳴り物入りでMLB球界に飛び込んでいったが、MLBとNPBには球場、使用球、練習方法、戦術を含め取り巻く環境に大きな違いがある中で、前評判通りにNPB同様の活躍をするのは決して簡単なことではなかった。

 2012年にレンジャーズ入りしたダルビッシュ有投手も、自分の意志とは無関係に圧倒的な前評判を背負わされてのMLB挑戦となった。史上最高額の入札額(5170万3411ドル)も手伝い、周囲の期待は膨らむ一方だった。その中で彼はそれらの期待を裏切ることなく投げ続け、6年間の契約を全うした。

 途中トミージョン手術という苦境もあったが、彼の意志と努力で手術前以上のパフォーマンスができる状態で復活を遂げた。移籍したドジャースではワールドシリーズという大舞台で結果を残すことはできなかったが、今オフのFA市場で先発投手として最上ランクの評価を受けるまでになった。これこそダルビッシュ投手がこの6年間、“as advertised”の評価を受け続けてきた証拠だともいえる。

 ダルビッシュ投手と同じような足跡を辿った松坂大輔投手が、レッドソックスとの6件契約が終了した後どんな評価を受けていたのかを考えれば、現在のダルビッシュ投手の偉大さを理解できるだろう。まだ日本人選手が若い年齢からMLB挑戦できる環境にないこともあるが、これまでMLBに在籍して6年間ずっと高評価を受け続けた日本人選手は、イチロー選手以外ではダルビッシュ投手が初めてだと思う。

 現在ではダルビッシュ投手同様(いやそれ以上に)、大谷翔平選手がFA市場で注目を集める存在になっている。確かに大谷選手の類い稀な才能に疑いの余地はないが、ダルビッシュ投手と同じ土俵で評価するのは間違っていないだろうか。これまでもMLB挑戦前の日本人選手がFA市場を賑わせ、高い評価を受けたことがあったように、大谷選手もあくまでMLBでの実績がゼロでの評価でしかない。

 ダルビッシュ投手は現在の高い評価を自らの力で勝ち取ったのだ。彼がこの6年間で積み上げた実績は、まさに“勲章”そのものだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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