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ダルビッシュ・トレードの舞台裏に迫る

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
今季はもうレンジャーズのユニフォーム姿を見られなくなった…(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 トレード成立後、ドジャースの地元記者たちがファーハン・ザイディGMとのインタビューを実施しているようだが、彼らのGM関連ツイートをチェックする限り、レンジャーズとの間でギリギリの交渉が続いていたことが理解できる。

 交渉の最大のポイントは、ドジャースがダルビッシュ投手獲得の見返りに譲渡できる交換要員がすべてだった。ドジャースはダルビッシュ投手が欲しい反面、将来を見据えたファーム育成組織を維持するためにも、レンジャーズの要求通りに有望若手選手を放出するわけにはいかないのだ。

 さらにドジャースはレンジャーズとは別に同時進行で、パイレーツ、レッズとの間でトニー・ワトソン投手、トニー・シングラニ投手と2人のリリーフ投手の獲得交渉を行っており、そちらとの調整、兼ね合いもあった。結局レンジャーズが納得できる若手有望選手が揃い、合意に達したのはトレード期限終了(日本時間の1日午前5時)15分前だったという。

 最終的にドジャースはウィリー・カルホーン選手(22歳)、ブランドン・デービス選手(20歳)、AJ・アレクシー投手(19歳)と3人の若手マイナー選手を放出した。特にカルホーン選手に至っては、MLB公式サイトが選ぶドジャースの有望若手選手ランキングで4位に入る逸材で、今シーズンは3Aで23本塁打、67打点を記録するなど近い将来の主軸候補だった。

 ただドジャースはダルビッシュ投手を含めた3つのトレードで、有望若手選手ランキングのトップ30の内3選手の放出だけに留めることに成功している。それは裏を返せば、レンジャーズもある程度譲歩した結果だといえるだろう。

 これまでの報道を整理すると、今年のトレード市場でずっとダルビッシュ投手獲得に最も積極的だったのはドジャースだったのは紛れもない事実だ。ただその理由は、周囲が予想していた長期離脱した大黒柱クレイトン・カーショー投手の“穴埋め”ではなく、その先を見据えた深部深慮によるものだった。

 ザイディGMが地元記者たちに説明しているところでは、今回のトレードはカーショー投手の負傷が起因しているのではなく、あくまでプレーオフでしっかり戦える“信頼できる”先発投手が必要だったから、としている。それはここ数年のドジャースの戦い方を見ていれば一目瞭然だ。

 昨年まで地区優勝4連覇を飾りながらも、プレーオフではリーグ優勝決定シリーズ敗退2回、地区シリーズ敗退2回と苦しい戦いが続いてきた。カーショー投手以外に信頼できる先発投手がいないため、彼に中3日登板やリリーフ登板など無理な起用を行った結果、投手陣が崩壊して力尽きてしまうパターンを繰り返してきた。ザイディGMとしてはその状況を打開するため、なんとかしてカーショー投手に並び立つ確固たるエースが欲しかったというわけだ。今年のトレード市場でドジャースの要求を満たす投手こそ、ダルビッシュ投手だったのだ。

 だがダルビッシュ投手を巡るドジャースとレンジャーズの攻防はこれで終結したわけではない。ある意味これからが本番といえるだろう。

 昨日(31日)に記事を公開している通り、レンジャーズの本当の狙いは、トレード相手から有望若手選手を獲得するだけでなく、オフにFA権を取得するダルビッシュ投手を再契約というかたちで呼び戻すことだ。地元メディアの報道によれば、レンジャーズ首脳陣はその実現性にある程度の自信を覗かせているようだ。

 もしダルビッシュ投手がチームの期待通りの活躍をしてくれれば、もちろんドジャースも黙っていないだろう。現在年俸総額がMLB1位という資金力を誇っている。シーズン終了後FA公示日前まで、ドジャースはダルビッシュ投手と独占交渉権を得ることができるのだ。そこでカーショー投手レベルの大型契約を提示すれば、一発逆転で契約延長というかたちでドジャース残留に持ち込める可能性は十分にある。

 すべては今後のダルビッシュ投手の投球次第にかかっているが、またオフにダルビッシュ投手が注目の的になる選手であることは間違いない。

 まずは2009年の第2回WBC決勝以来となる、ダルビッシュ投手がドジャー・スタジスアムのマウンドに立つ姿を楽しみたいと思う。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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