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ハーバード大出身の楽天・ハーマンは野球に対する姿勢も超優等生だった

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
自分で持ち込んだ器具を使い黙々と練習メニューこなし続ける楽天のハーマン投手

6月16日の阪神戦。練習終わりに話を聞かせてもらおうと、練習開始を待ちながらストレッチポールを使い身体をほぐしているハーマン投手に声をかけたところ、以下のような答えが返ってきた。

「デーゲームは(時間が)タイトなんだ。もちろん時間が合うようなら問題ないよ。だた厳しいそうなら明日でもいいかな?」

もちろん選手から話を聞かないと取材にならないのでハーマン投手に一任したものの、その返答は、ちょっと自分が予想していたものと違っていた。

この日はハーマン投手が言うように、ナイター明けのデーゲームだった。長年MLBで取材していた経験上、実はナイター明けのデーゲームの試合前こそ、意外に選手たちから話を聞くことできる絶好機なのだ。というのも、ナイター明けのデーゲームは否応なしに睡眠時間が削られるため、試合前の練習を軽めに済ませのんびりする選手が多いからだ。中には試合前の練習に参加せずに、ベンチでメディアとずっとおしゃべりしてくれる選手も少なくないのだ。

だがハーマン投手はこの日も自分のルーティンを変化させることなく、自分のメニューを黙々と消化していった。前日の試合前練習もハーマン投手がどんなメニューをしているのかチェックをしていたのだが、この日も時間、内容ともに同様の準備を行っていた。それでも練習終わりにはきちんと約束を守ってくれ、自分の質問に答えてくれた。

「ここまではいい感じできているよ。チームの状態もいいしね。自分としても与えられた場所でそれなりの仕事ができていると思う。ただシーズンは長いからね。このままいい状態でシーズンを乗り切れればと願っている。チームの成績が良ければ、必然的に自分のパフォーマンスにも影響してくるからね」

ここまで25試合に登板し、1勝0敗、防御率2・28を残す。本人の言葉通り、チームの成績に後押しされるように、抑えの松井投手につなぐセットアッパーとして“勝利の方程式”の一翼を担っている。もちろん今後もチーム成功のカギを握る重要なリリーフ投手の1人だといえる。

「以前から海外でプレーすることに興味があった。野球を通してこれまで味わったことのないライフスタイルや経験を積むことが可能だからね。2011年にフクドメ(2012年にカブスからトレード移籍)とチームメイトだったし、トオル(日本ハムの村田投手。彼とは3Aでチームメイトだった)は自分の友だちだ。彼ら日本人選手や他の外国人選手から、いろいろな現地の野球事情について話を聞くのが大好きだったんだ。

日本の野球はハイレベルだね。基本がしっかりできている。多分メジャー選手ほどパワーはなく、速い球を投げるわけではないけど、基本や試合に向けた準備に関してはメジャーと変わらない。それとファンの熱狂ぶりは素晴らしい。毎日が新しい発見の連続で、いつもリストをつくっているんだ。とにかく日本の野球にいい印象を受けている。

(来日してから)“障害”というものを感じたことはない。“適応”の範囲内だ。これまで2回ほどボークをとられてしまったので修正したり、打者について研究しながら米国とは多少違ったアプローチを理解したりしている。ただキャンプの2ヶ月間でかなりの部分で適応することができたと思う。キャンプ期間は長いとは思うけど、1年目の自分にとっては大いに役立っているよ」

一つ一つの質問に丁寧に答えてくれるハーマン投手。そこで自分が気になったデーゲームでも手の抜かない練習スタイルについても聞いてみた。

「自分はいつも、しっかり準備を続けることが自信を積み上げていってくれると感じている。手を抜いてしまったら自信を得られないし、パフォーマンスも落ちてしまう。怠けてしまうことは自分の助けにはならない。短期間ならロッカールームでのんびり電話でも楽しむこともできるのかもしれない。でも自分は33歳になり、休むことなく身体の準備をしていかねばならない。まだ自分はもう少し野球をやりたいし、精神的にも肉体的にも準備しなければならないことは理解している」

今回取材に回って発見したのだが、ハーマン投手は試合前の練習に常に自分の器具を持ち歩き、全体練習の合間に自分用の練習メニューをこなしている。まさに本人の言葉通り、まったくの妥協を感じさせない。

「ウェイト・ボール(メディシンボール?)や(リスト)バントなどの器具をアメリカから持ってきた。それと球団で取り入れているスティック(長めの棒)を使ったメニューも取り入れている。これまでも他の球団でやっている練習メニューなどを参考にしながら取り入れるようにしている。日本でもそうやっていろいろ対応していくことで少しでも長いキャリアに繋がっていけるんだと思う。

自分のルーティンが確立しているけど、いつでもオープン・マインドの姿勢は変わりない。今でも仲のいい選手たちに練習メニューについて『これはどんな効果があるのか?』と質問しているし、自分に適したものがあれば積極的に加えていきたいと思っている」

しばらくは日本で野球をやりたいと話してくれたハーマン投手。現在の野球に取り組む真摯な姿勢がある限り、彼は日本でも若手選手のお手本になり得る存在なのかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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