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無投球敬遠は本当に有効なのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
もうMLBでこんなシーンが見られることはないのだろうか?(写真:ロイター/アフロ)

新ルールによるシーズンが開幕してから1ヶ月以上が経過した。ちょっと敬遠に関するデータをチェックしてみた。

5月16日現在で、ナ・リーグは全283試合で計137、ア・リーグでは282試合で77の敬遠が記録されている。つまりナ・リーグでは1試合平均0・484、ア・リーグに至っては0・273の割合でしか敬遠が採用されていないのだ。

あくまで単純計算ではあるが、無投球敬遠によってセーブできる時間は1分程度だろう。つまりここまで新ルールによって短縮できている時間は、ナ・リーグで31・944秒、ア・リーグで16・38秒でしかないということになる。とてもではないが、マンフレッド・コミッショナーの希望通りに新ルールが試合ペースを改善できているとは言い難い。

残念ながら新ルールは時間短縮に大きな効果はない一方で、これまで何度も指摘されていた通り、これまで敬遠で起きていたドラマティックなハプニングを奪ってしまった。どう見てもデメリットの方が大きいとしか思えない。

Remembering the four pitch IBB

実はMLB公式サイトでは今年4月に、敬遠がなくなってしまったことを惜しむような動画を制作し公開している。またYouTube上でも昨年4月にアップされた過去にMLBで敬遠の際に起こったドラマを集めた動画集がアップされていたのだが、そこには100を超えるコメントが寄せられており、その大半が新ルールに懐疑的な意見ばかりだった。MLBの現場は賛成意見も出たりしているが、これが偽らざるファンの反応だと考えていいだろう。

常に改善の努力を惜しまないMLBの姿勢は、NPBも見習うべきものがあると思っている。だが明らかに疑問が残る改善策についてはすぐに取り止める勇気も必要だろう。マンフレッド・コミッショナーの英断に期待したい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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