定位置なんて必要ない!川崎宗則が追求する「日本のベン・ゾブリスト」

2軍戦で複数ポジションを無難にこなしている川崎宗則選手

ここまで川崎選手は2軍戦で、遊撃、二塁、三塁、左翼を守り、そつない守備を披露している。

川崎選手が復帰直後に某プロ野球OBが「もう守るところがない」と解説していた視点から見れば、選手層の厚いソフトバンク内でなんとか存在感を示したいという捉え方になってしまうかもしれない。残念だが、それは完全なる的外れだ。川崎選手は今でも1軍で毎試合出場するつもりだし、それなりの自信も持っているはずだ。彼が複数ポジションをこなしているのは、もっと深い考えがあってのことだ。

ここ数年川崎選手が目標にしていた選手が存在する。昨年同じチームに在籍していたベン・ゾブリスト選手だ。この名を聞いて多くのMLBファンの方々が、これから自分が説明するだろうことの察しがついたのではないだろうか。

簡単にゾブリスト選手について説明すると、川崎選手と同い年で今年5月に36歳になるベテランだ。2006年にレイズでメジャー初昇格を果たし、昨年まで計4チームに在籍。2015年はロイヤルズで、そして昨年はカブスで主力選手としてワールドシリーズ制覇に貢献した一発長打も期待できるスイッチヒッターだ。また過去3回オールスター戦にも選出され、第3回WBCでは米国代表としてもプレー。今季年俸は1650万ドル(約18億円)と、メジャーを代表する選手の1人と言っていい。

そんなゾブリスト選手だが、彼はメジャー定着以降、守備で“定位置”を与えられてこなかった。元々遊撃手だったのだが、毎シーズン複数ポジションをこなし続けている選手なのだ。例えば昨年のカブスでも二塁、左翼、右翼、一塁、遊撃のポジションを守っている。にも関わらず2009年以降レギュラー選手として毎年150試合前後(2015年だけトレードもあり126試合)に出場し続けている。

これまでユーティリティ選手と言えば控え選手の代名詞のような使われ方をしてきたが、まさにゾブリスト選手はそんな既成概念を覆した代表選手と言えるだろう。しかも主力選手のユーティリティ化はさらに加速し、今後MLBで新たな潮流になろうとしているように感じる。

例えば昨年のカブスが顕著な例だ。前述した通り、ゾブリスト選手は5つのポジションをこなしているが、それ以外にもクリス・ブライアント選手、ハビアー・バエス選手ら3つ以上のポジションに就いた選手が7人も存在したのだ。そうしてメジャー枠25人の選手(そのうち野手は捕手を含め12人か13人)を効率よく回しながら、できる限り戦力を落とすことなく戦い抜き、108年ぶりにワールドシリーズを制覇した。昨年川崎選手の昇格機会が少なかったのも、これが大きな要因になったともいえる。

ここまで説明すればお分かりのように、川崎選手は日本でゾブリスト選手のような存在になろうとしているのだ。もちろん複数ポジションを高いレベルでこなすには、人並み以上の野球センスと身体能力を必要とするものだ。だが川崎選手はゾブリスト選手のようなタイプを目指してきたからこそ、この数年はしっかり意識して身体づくり、練習も行ってきた。だから2軍戦でも当然のように複数ポジションをこなしているのだ。

もし川崎選手が一軍に上がり、複数のポジションをこなしながら出場し続けたとしよう。定位置にいる主力選手たちは入れ替わりで週一程度の休養を得ることができるようになる。人工芝を本拠地球場とするソフトバンクの場合、選手への身体的負担は大きく、長いシーズンを考えれば理想的な選手起用ができるだろう。

さらに付け加えると、ゾブリスト選手を理想としているのは守備だけではない。いざという時に一発長打を期待できる打撃面においてもかなり影響を受けている。ここ数年川崎選手は、同じようなレベル、タイプの選手が2人いるとしたならば、チームが欲しているのは長打が打てる選手だということを、身をもって体験してきた。

だからこそ今年のキャンプでは、とにかく打てる球に対ししっかりバットを振り切ることを心がけてきた。キャンプ終盤ではそのかたちが徐々に固まり始め、オープン戦でも強い打球が打てるようになっていた。それを物語るように、調整を続ける2軍戦でもここまで(18日現在)放った9安打のうち7本が長打(本塁打1本を含む)であり、長打率に至っては1.118と驚異の成績を残しているのだ。

複数ポジションをこなした上、さらに一発長打も期待できる選手──。川崎選手の米国での5年間が日本でどういう評価を受けてきたのかはさておき、彼が着実に野球選手として進化を遂げてきたことだけは疑いようのない事実だ。その理想型を体現できるようになった時こそ、定位置なんてなくても川崎選手は毎試合グラウンド上で躍動してくれることだろう。

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、現在まで米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を再認識し、2017年から日本に拠点を移し取材活動の傍ら、近畿大学で教壇に立ち大学アスリートの自己啓発を目指す。

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