Yahoo!ニュース

筒香嘉智が見据える日本野球界の行く末

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
少年野球の指導に本格的に乗り出したDeNAの筒香嘉智選手

DeNAの筒香嘉智選手が1月15日、彼が中学時代に所属していた「堺ビッグボーイズ」小学部のスーパーバイザーに就任することにあり、その就任式が行われた。オフに現役選手が野球教室を開くことはたびたびあることだが、こうして特定のチームの指導に携わるのはかなり珍しいケースだ。

そこには筒香選手ならではの壮大な野望と決意があった。彼が歩んできた野球人生の中で、どうしても見過ごすことができなかったもの。それこそが、長年に渡り日本の少年野球界で伝統となっている指導のあり方だった。

「海外でジュニアの指導を見させて頂いて、日本とは対極的な指導方法だったというのが印象でした。日本の野球界が悪いというのはまったくないんですけど、子供たちに答えを与えすぎているな、と…。(日本では)指示待ちの行動をしている子供が多かったり、想像力が補われていない子が増えていたりとか、そういうのは正直感じました。答えは自分で探すというか、指示を待たずに自分で動けるような人になっていってほしい。そういう選手が少なくなってきていると感じたのが最初です。

また向こう(海外)で指導者が怒鳴ったり、起こったりする姿は一回もなかったですし、でもただ『楽しくやれ』とやらせておけばいいのかと言えばそうじゃなかったです。指導者の方が選手に敬意を払って、子供たちに指示する忍耐力、観察力もすごく大事だと思います。そういう部分は(日本の少年野球を)もっともっと良くしていくために取り組んでいかないといけないと思いました」

ここ数年筒香選手に限らず、少年野球の現状を憂う人は増えてきている。高校野球同様に勝利至上主義が蔓延り、グラウンドでは監督、コーチの怒声が響くのが当たり前の世界が色濃く続いている。

しかし筒香選手は堺ビッグボーイズ時代から、一方的に練習を押しつけるのではなく自分で考えながら成長させようとする指導スタイルで育ってきた。その後横浜高校、ベイスターズと進むにつれ、どうしても押しつけの指導法に“違和感”を感じるようになっていった。

さらに米国やドミニカを訪れ海外の少年野球の実情に触れ、その思いは強くなるばかりだった。その中で今も親交を続ける堺ビッグボーイズの瀬野竜之介代表と意見交換を繰り返した結果、それまで中学部しかなかったチームに昨年4月から小学部を創設。そして今回、現役選手ながらスーパーバイザーに就任し、さらに少年野球の指導に尽力していく姿勢を鮮明にすることとなった。

この日は小学部29人に加え、体験会を開催し約70人の小学生と触れ合い、野球やゲームなどを楽しんだ。いつもは生真面目な筒香選手だが、子供たちの前では常に満面の笑みで接し続けた。

「ただ野球をやっていればいいかと言えば、そうではない。野球を通じて人生に生かさなければ意味がないです。今考えて動ける人が少なくなってきていると思うので、そういう考える力がつけば今の時代を生きる必要な力が身につくのではと僕は思っています」

筒香選手が理想とするのは、あくまで野球を通じた人間教育だと考えればいいだろう。彼がそうであったように、野球を通じて子供たちにたくさんのことを学んでほしい。野球を愛すればこそ、筒香選手が経験したような野球の本来のあるべき姿を世に広めたいという衝動が筒香選手を動かすことになったのだ。

まだ25歳とはいえ、今やNPBを代表する長距離打者に成長し、球界にもたらす影響力は半端なものではない。その中で少年野球界の潮流に抗うような今回の行動は、すべての人々に歓迎されるものではないはずだ。だが筒香選手の覚悟は、すでに定まっているようだ。

「人っていうのは前例のないことを嫌いますが、それでは何も変わらない。もちろん日本には日本の良さがありますが、そこは(すべてを受け入れられない)微妙なラインなんですけど…。でも誰かが変えていかないと良くはなっていかないですし、最初はいろんなことを言われる可能性もありますけど、その恐れもまったくないです。僕自身野球を通じて成長させてもらっていますし、野球界にいろいろ還元できるようなことを強い勇気を持ってやっていきたいです」

今後はグラウンド外でも筒香選手の言動に注目が集まることになりそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事