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現行ポスティング・システムに異議を唱えた日本ハム・栗山監督の真意は?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
大谷選手のMLB移籍が騒がしくなる中、入札制度に対して異議を唱えた栗山監督(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

11月15日に日本ハムの栗山秀樹監督が語ったポスティング・システムに関する発言内容は、大谷翔平選手の獲得を狙っているMLB各チーム関係者に今後大きな波紋を広げることになりそうだ。

日本のスポーツ各紙が報じたところでは、日本外国特派員協会の記者会見、さらに同チームの2軍コーチ就任会見の2つの場で、入札額に上限のある現行のポスティング・システムに懐疑的な意見を述べている。

同システムは1998年にMLBとNPBの間で合意に達し、日本人選手は2001年のイチロー選手を皮切りに、多くの選手が同システムを利用してMLBへと移籍した。

しかし入札額が高騰化し、選手がチームを選べないなどの弊害が取り沙汰されるようになり、2013年から入札額を2000万ドルの上限額を設定し、同じ額で入札したチームはすべて選手と契約交渉できる現行システムに改定された。

施行期間は今年10月までだったが、今年5月の段階でMLB、NPB両サイドから変更申請が為されなかったため、来年10月まで延長されている。だが来年5月に変更申請が提出されれば、来年10月以降に適用される新たなシステムを討議することになる。

ただ旧制度、現行制度ともにいまだに“蚊帳の外”の存在になっているのが、移籍を目指す選手が所属するNPBチームだ。選手に対しポスティング・システムでのMLB移籍を認めるか否かの決断を下せば、それ以降は一切交渉には加われずただ入札金を受け取るだけだった。その日陰的な存在の所属チーム監督の現行システムに対する懐疑的な発言なだけに、大谷選手のMLB移籍がいよいよ注目を集め始めた今、MLB関係者が戦々恐々と受け止めても仕方がないだろう。

そもそもNPBチームがMLB傘下の外国人選手を獲得する場合、ポスティング・システムは適用されていない。サッカー界と同じように、当該チーム同志で話し合い、合意後は移籍金を支払い選手を譲り受ける。つまりMLBからNPBに選手が移籍する場合は、しっかり所属チームも交渉の場に立ち会うことができるのだ。

もし仮に現行システムが来年10月で失効し、新システムの代わりに両国間のチーム同志で移籍金を含め自由に交渉できるようになれば、まさに栗山監督が話す通り、日本ハムも大谷選手も満足のいくくかたちでMLBへの移籍できるようになるだろう。だがそれを実現するには様々な障壁をクリアしなければならない。

「出ていって何も残らないんじゃなくて、500億円残って球場が建つ方がいい」

現在日本ハムは札幌ドームを離れ、北広島市に新球場建設のプランを検討しているのは周知のこと。栗山監督の発言は、大谷投手の入札金(もしくは移籍金?)をこの新球場建設に回したいというチーム全体の考えが根底に見え隠れしているように思える。

いずれにせよ当面は来年5月以降にどうポスティング・システムに関してNPB、MLBでやりとりがあるのかを見守るしかない。ただMLBでさらにラブコールが強まる大谷投手のMLB移籍に関しては、従来とは違い所属チームの日本ハムが大きな役割を果たすことになるかもしれない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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