レイプを受け、目の前で夫と子供を殺された女性の復讐の旅を描く『ナイチンゲール』

 19世紀のオーストラリア、タスマニア地方。流刑者であるアイルランド人のクレアは、その美しい容姿と歌声ゆえに、夫と赤ん坊がありながらイギリス人将校ホーキンス中尉の囲われ者になっていました。夫は彼女が刑期を終えた後も釈放されることはなく、拘束が続いています。交渉を試みるものの、逆に激昂したホーキンスとその部下にクレアは激しいレイプを受け、夫と子供は彼女の目の前で殺害されてしまいました。

 尊厳を踏みにじられ、愛する者をすべて失ったクレアは復讐を決意しますが、ホーキンスたちは上司に昇進を直訴するために立ち去った後。しかも道を急ぐ彼らは街道ではなく、山越えのルートをとっていました。女一人で追えるわけもなく、彼女は先住民アボリジニの若者ビリーを道案内に雇います。

 初監督作『ババドック 暗闇の魔物』が高い評価を受けたオーストラリアの女性監督ジェニファー・ケントの新作。一見、よくあるレイプ・リベンジ・スリラーのようですが、舞台をこの時代のこの場所に設定したことで、より深いテーマが顔を出していきます。当時のオーストラリアでは、入植の名のもとにアボリジニは土地を奪われ、奴隷扱いされるか強制的な同化政策を受けるかの選択を迫られていました。それに反発する者たちは白人を襲い、一部では戦争状態になっていたのです。映画の中でも、縊り殺されたアボリジニの死体が吊るされている様子や、面白半分に虫けらのように射殺される姿が映し出されます。このあたりの描写は容赦なし。映画の終盤では互いに支え合うようになるクレアとビリーですが、出会ってしばらくはクレアもビリーを蔑視し、あからさまに差別的な態度をとっているのです。

 人種的偏見や身分差別、特権階級の意識によって人はどれだけ残酷になれるのか、このことを映画はこれでもかと描いていきます。ホーキンス一派は旅の途中で偶然出会ったアボリジニの女性を性のはけ口にするために誘拐したりもするのです。そう、いわれなき暴力の犠牲になるのはいつも女性。一部の人間の傲慢な行動がどれほどの悲劇を引き起こすのか。この映画に描かれているのは19世紀の出来事ですが、同時にこれは現代にも共通した問題である、と監督は訴えかけてきます。

 一時の激情で復讐を誓ったものの、クレアは基本的に弱い女性にすぎません。恐怖にふるえ、時に絶望し、逃げ出したりもします。『ゲーム・オブ・スローンズ』で知られるアイルランド系イタリア人のアイスリング・フランシオシがクレア役を大熱演。ビリーにはこれが初めての演技だというバイカリ・ガナンバルが扮し、ベネチア映画祭の新人俳優賞に輝きました(同映画祭では審査員特別賞も受賞)。悪役にあたるホーキンスを演じたのは『世界一キライなあなたに』のサム・クラフリン。オーストラリアのアカデミー賞で作品・監督・脚本・主演女優賞など最多の6部門で受賞しています。

 タイトルの『ナイチンゲール』とは、夜鳴きウグイスのこと。イギリス将校たちの宴会の余興としてステージで歌わされるクレアのあだ名です。実際にオペラ歌手でもあるフランシオシが劇中で何度も歌声を披露。アイルランド民謡の美しくも切ない調べが荒涼としたタスマニアの大地に響き渡り、観客の胸に余韻を残してくれます。

(『ナイチンゲール』は3月20日から公開中)

配給:トランスフォーマー

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