愛する人々の生きた証を残すため、戦火のシリア・アレッポで母はカメラを手にする…『娘は戦場で生まれた』

 胸が痛くなるようなドキュメンタリーです。

 舞台はシリアの大都市アレッポ。ジャーナリスト志望の学生ワアドは、反政府デモへの参加をきっかけにスマホで撮影を始めます。一時は政権側が撤退し、民衆や仲間の喜ぶ姿が映し出されますが、すぐに状況は一変。ロシアがシリアのアサド政権を支援して軍事介入、反政府勢力の拠点になっていたアレッポに空爆を開始したのです。そんな中、ワアドは医師のハムザと出会って恋に落ち、結婚。やがて新たな命を授かります。長女サマの誕生です。しかし、空爆は激しさを増し、病院までもが標的に。ハムザやワアドたちは瓦礫の中の崩れかかったビルの中に病院を開設。一人でも多くの人を救おうとしますが、アレッポは完全に封鎖され、陥落の時は迫りつつありました…。

 とにかく悲惨な映像の連続です。拷問の形跡もある損壊した死体は容赦なく映し出され、空爆の瞬間もとらえられています。赤ん坊があどけない笑みを浮かべているかと思うと、直後には爆音と爆風で家が揺らいだりもするのです。幼い息子の遺体を抱き、その名を呼びながら町をさまよう母親。妊娠9か月で空爆を受けた母親から子供を帝王切開で取り出そうとする医師たち…。2012年から2016年のアレッポ陥落までのそんな状況を、ワアドはカメラを構え、撮り続けていきます。時に時間軸を行き来しながら、彼女が語るナレーションは、娘のサマに向けてのメッセージなのです(この映画の原題は『FOR SAMA』)。

あどけない表情を見せる娘のサマ
あどけない表情を見せる娘のサマ

 ワアドが撮影を続けた理由は、家族や愛すべき人々が生きた証を映像として残したかったから。笑顔で会話していた医師仲間がその直後に殺されてしまったとしても、美しかった街並みが無残な廃墟と化したとしても、かつてそこにあったものを忘れない、娘に伝えておきたいという想いが伝わってきます。

 なんとも切ないのは、ワアドがサマを愛していながら、こんな世界に産んでしまったことに罪悪感を抱いてしまうこと。そんな中で、娘に未来を託し、この悲惨な現状を記録するのが自分の使命だと自覚していく姿には涙があふれます。

 クライマックスは、ついに陥落するアレッポからの決死の脱出行。もう二度と戻れないかもしれない自宅を万感の思いで撮影していく映像は(この家に引っ越してきた時の希望に満ちた映像もあるため)、胸に迫るものがあります。撮影はほとんどがワアド・アルカティーブ自身によるもの。それをエミー賞受賞経験もあるエドワード・ワッツ監督と共同で演出して1本の作品に仕上げ、カンヌ国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞、アカデミー長編ドキュメンタリー賞の候補にもなりました。

 ちなみに「サマ」とはアラビア語で「空」という意味。ワアドやハムザが大好きだった、雲と鳥だけが見えて戦闘機のいない真っ青な空への願いからつけられたものです。

(『娘は戦場で生まれた』は2月29日から公開)

配給:トランスフォーマー

(c)Channel 4 Television Corporation MMXIX