北欧の陽光の下で、若者たちを襲う惨劇とは?『ヘレディタリー 継承』監督の新作『ミッドサマー』

 長編デビュー作にあたる『ヘレディタリー 継承』で大いに注目を集めたアリ・アスター監督の新作。観客を嫌な気分にさせる手腕は今回も絶好調で、実に居心地の悪い思いをさせてくれます(褒め言葉です)。

 アメリカ人の女子大生ダニー(『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』でアカデミー助演女優賞候補になった期待の新星フローレンス・ピュー)は、双極性障害の妹が両親を巻き込んで一家心中をはかったことで家族すべてを失い、天涯孤独になってしまいます。しかし恋人のクリスチャン(ジャック・レイナー)は、ダニーがそんな状況であるにもかかわらず、かねてから予定していた男友達との北欧旅行に出発しようとしていました。スウェーデンからの交換留学生ペレに招待された、夏至(ミッドサマー)に行なわれる90年に一度の祝祭に参加できるめったにないチャンスを逃したくなかったからです。クリスチャンは悩んだあげく、ダニーも旅行に誘い、男4人女1人での旅が始まります。

 冒頭からいきなり衝撃的なシーンが登場。ダニーの不安感や孤独をあおり、恋人よりも自分の都合を優先するクリスチャンに対する不信感もつのらせていきます。物語のおもな舞台になるのは人里離れたスウェーデンの村“ホルガ”。太陽がほとんど沈まない白夜の地で、美しい花々が咲き乱れ、同じ衣装に身を包んだ住人たちは共同体を作って穏やかに暮らしています。彼らは笑顔を浮かべながら、旅行者たちを受け入れてくれるのですが…。

 ほとんどのホラー映画とは違い、本作は明るい陽光の下で物語が展開していきます。そんな中で感じるささやかな違和感、「もし、こうなったら嫌だなぁ…」という不安が次第に増殖されていくのがアスター監督らしいところです。例えて言うならば“文化人類学的ホラー”で、ホルガという村における架空の文化の形態を一から作り上げ、その祝祭の様子をじっくりと描写することで、荒唐無稽な物語に説得力を持たせています。アメリカ人の若者の常識と村人にとっての常識の隔たりが明らかになるにつれて、恐怖感が高まっていくのです(そのために2時間27分という長尺になっているのですが)。しかも、ダニーたちが体験することはすべて、それ以前に何らかの形で予兆が示されているという巧妙なストーリーテリングも行なわれています。

“明確な悪意”が存在しないのも、この映画の恐ろしいところ。残虐な行為は何度も描かれますが、それはすべてある“伝承”のもとで行なわれている“当然の行為”なのですから。村人の笑顔の裏に隠されているものが明らかになった時、観客もまた言い知れぬ絶望を感じるのです。しかも、この映画はダニーにとっての“自己解放の物語”という解釈も可能で、そのあたりの多様性にもアスター監督の才覚を感じさせられます。

(付記)

ルキノ・ヴィスコンティ監督の『ベニスに死す』で美少年俳優として人気を集めたビョルン・アンデルセンが老人役でちらりと出演しています。

(『ミッドサマー』は2月21日から公開中)

配給:ファントム・フィルム

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