周防正行監督の映画への愛情がつまった『カツベン!』成田凌の見事な弁士ぶりは圧巻!

 映画は誕生してからしばらくは、音声のないサイレントが普通でした。しかし、それが“活動写真”と呼ばれていた日本だけは、独自の文化が花開いていました。それは映画の上映に合わせて自らの語りや説明で映画を彩る“活動弁士”の存在。彼らは独自の個性で映画に魅力を加え、時には映画の内容や俳優よりも弁士の方が人気を集めることもあったのです。そんな大正時代を舞台にして、『シコふんじゃった』『Shall We ダンス?』の周防正行監督が活動弁士=カツベンたちの世界を活き活きと描き出した娯楽映画が、この『カツベン!』です。

 子どもの頃から活動弁士に憧れていた染谷俊太郎(成田凌)は、ニセ弁士として泥棒一味の片棒を担ぐ生活に嫌気がさし脱走。とある小さな町に流れつき、青木館という映画館の下働きの職に就きます。そこは隣町のライバル映画館・タチバナ館に客や人手を引き抜かれ、閑古鳥が鳴いていました。やがて彼はふとしたことから弁士として舞台に立つチャンスに恵まれ、次第に人気を集めていきますが…。

俊太郎(成田凌)は活動弁士として人気者になるが…
俊太郎(成田凌)は活動弁士として人気者になるが…

 登場人物は俊太郎の幼馴染で今は女優になった梅子(黒島結菜)、少年時代の俊太郎の憧れの存在だったが今は酔いどれの弁士・山岡秋聲(永瀬正敏)、スター気取りで傲慢な弁士・茂木(高良健吾)、ニセ弁士を追う熱血刑事・木村(竹野内豊)、俊太郎が持ち逃げした大金を追う泥棒・安田(音尾琢真)、タチバナ館の社長・橘(小日向文世)、その娘の令嬢・琴江(井上真央)など一癖も二癖もある面々ばかり。青木館の館主夫妻には竹中直人と渡辺えりが扮して笑いを誘います。

 劇中で上映される映画内映画も豪華絢爛。実在する名作を再現したものや本作オリジナルのものが入りまじり、シャーロット・ケイト・フォックス、上白石萌音、城田優、草刈民代らが出演。名作『雄呂血』は実際のフィルムが使われています。その『雄呂血』の監督・二川文太郎に池松壮亮、日本映画の父・牧野省三には山本耕史が扮しています。

俊太郎の幼馴染の梅子(黒島結菜)は女優になっていた
俊太郎の幼馴染の梅子(黒島結菜)は女優になっていた

 タンスの引き出しを使った笑えるシーンや、自転車のチェイスなどの体を使ったアクションは、無声映画時代のコメディに対するオマージュなのでしょうか。弁士の語りによって映画の印象がまるで違ってしまうあたりは、当時の知られざる文化を教えてくれます。「語らない弁士」となった山岡が提起する「我々は映画に余計なものを付け足しているのではないか」という問題は、この数年後にトーキー時代を迎え弁士の活躍場所がなくなっていくことを考えると、もっと深く描かれてもいいのではないかと思ってしまいますが、周防監督はあえて活動弁士の光の部分にのみスポットを当て、彼らの黄金時代を描こうとしたのでしょう。

 なんと言っても見どころは活動弁士になりきった成田凌の大熱演。近年、飛躍が著しい成田は100人を超える志願者からオーディションで選ばれて初主演の大役をゲット。4か月に及ぶボイストレーニングや弁士ならではの言い回し、間やイントネーションの取り方などを猛特訓して、堂々の舞台姿を見せてくれます。

 周防監督の映画への愛情がつまった、王道のエンターテインメント作品です。

(『カツベン!』は12月13日から公開)

配給:東映

(c)2019「カツベン!」製作委員会