世にも奇妙な宮殿を独力で作った男には、哀しい家族のドラマがあった…『シュヴァルの理想宮』

 フランスの南東部、ドローム県オートリーヴ村というところに奇妙な建造物があります。郵便配達員のジョゼフ=フェルディナン・シュヴァルという男が、たった一人で石を拾い集め、すべて手作業で33年もの歳月を費やして作った理想宮。雑誌や絵葉書で見たものを頼りに、建築や美術について何の知識もなかった男が作り上げたおとぎの国の宮殿は古今東西のさまざまな建築様式やモチーフが混在しており、ピカソなどの芸術家にも絶賛され、現在では一大観光スポットになっています。

 この話は非常に有名なため、日本でもTVのバラエティ番組で再現ドラマとして取り上げられたこともありますが、「なぜ彼がこれを作ったのか?」について言及したものは今までになかったはず。そこには、あまりにも哀しい家族の物語があったのです。

 19世紀末、妻を亡くし息子を里子に出した郵便配達員シュヴァル(ジャック・ガンブラン)は、新しい赴任先で未亡人のフィロメール(レティシア・カスタ)と出会って恋に落ち結婚。二人の間には娘のアリスが誕生します。しかし寡黙で人付き合いの悪い彼は、幼子とどう接していいかわからず戸惑っていました。そんなある日、配達の途中で石につまずいたシュヴァルは、その石の奇妙な形に心奪われ、やがて石を積み上げて壮大な宮殿を作り上げるという奇想天外な行為に没頭していきます。それは不器用な彼なりの、娘への愛情表現でもありました。周囲から奇人変人扱いされながらも、宮殿の工事現場を遊び場にする娘との幸せな日々が続きます。しかし、そんな彼らに悲劇が襲いかかるのでした…。

 シュヴァルは最初の妻が病死した時、幼い息子と向き合うことができず、親戚に預けることしか選べませんでした。そんな彼がフィロメールやアリスのおかげで初めて“家族”と向き合い、愛情の対象を得ることができたのです。しかし、残酷な運命は彼からそれらを奪い取っていきます。なんという切ない物語。ガンブランは現存するシュヴァルの写真そっくりにメイクを施し、彼になりきっています。寡黙な役なのでセリフは少なく、表情も豊かではありませんが、その武骨な佇まいから、魂の慟哭が伝わってくるような名演を見せてくれるのです。

 監督はベルトラン・タヴェルニエ監督の息子で俳優出身のニルス・タヴェルニエ。ラストの“泣かせ”のくだりは少々やり過ぎ感がありますが、手堅い演出ぶり。色鮮やかな風景をとらえた画面も美しい。理想宮は歴史的建造物に指定されている実物を使って撮影されています。そのため、工事中の場面はCG処理によって一部を消していくという最新の技術が導入されているのです。

(『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』は12月13日から公開)

配給:KADOKAWA

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