没後20年、鬼才スタンリー・キューブリック監督の素顔に迫るドキュメンタリー2本が日本公開

『キューブリックに魅せられた男』(C)2017True Studio Media

 独特の映像美学によって世界中の映画ファンに愛されながらも、あまりにも完全主義者だったため生涯で13本しか長編映画を残さなかったスタンリー・キューブリック監督。“鬼才”と呼ばれた彼の知られざる素顔に迫ったドキュメンタリーが、カップリング上映という形で2本公開されます。まったく違ったアプローチで、それぞれが別の人間を主人公にしているのが特色。

 まずは『キューブリックに魅せられた男』。こちらの主人公はイギリスで俳優をしていたレオン・ヴィターリ。『2001年宇宙の旅』や『時計じかけのオレンジ』の映像世界に圧倒された彼は、将来なんとしてもキューブリックと仕事をしたいという夢を抱きます。そして念願かなって『バリー・リンドン』のオーディションに合格して出演を果たしたヴィターリ。しかしなんと彼は、この後に俳優業をすっぱりと辞め、スタッフに転身してしまったのです(俳優としてそれなりに将来を有望視されていたのに)。

『シャイニング』から裏方になったヴィターリは、子役の世話、キャスティング、俳優への演技指導、プリント・ラボ作業、サウンド・ミキシング、宣材や予告編の製作、世界各国での公開スケジュールの管理など、ありとあらゆる分野で活躍。監督の信頼を得ていきます。しかしそれによって彼の仕事量はとんでもないことになり、常に24時間体制での作業を強いられ、肉体的精神的に追いつめられていくことにもなるのです。自らを「フィルムメーカー」ではなく「フィルムワーカー(これが本作の原題)」と呼んだヴィターリは、なぜそこまでしてキューブリックに自らの人生を捧げたのか? 

 本作の特徴は貴重なビハインド・ザ・シーンの映像が観られることで、あまり表に出ることがなかった「キューブリック作品の現場」の様子は大変貴重なもので、ライアン・オニール、マシュー・モディーン、R・リー・アーメイなど、キューブリック映画の出演者たちが当時を語るのも興味深いです。

『キューブリックに愛された男』 (C)2016 Kinetica-Lock and Valentine
『キューブリックに愛された男』 (C)2016 Kinetica-Lock and Valentine

 もう一本は『キューブリックに愛された男』。イタリアからの移民エミリオ・ダレッサンドロが主人公です。レーシングドライバーを目指してロンドンにやって来た彼はタクシー運転手になりますが、ふとしたことからキューブリックに出会い、彼の専属運転手として雇われます。しかしその仕事は運転手の枠を超え、食材の買い出しやペットの世話まで頼られることに。生活面に関する細々とした事柄をメモや電話でひっきりなしに寄越すキューブリック。その指示に振り回され、エミリオとその家族の生活はかき乱されていきます。しかも、一度はイタリアに帰郷したエミリオをキューブリックは再びイギリスに呼び戻すのです。

 こちらでは天才映画作家ではなく、プライベートなキューブリックの一面が描き出されていきます。共通点のほとんどない(エミリオはキューブリックの映画を観たことがなかった)二人が、少しずつ相手を理解し尊重し、30年にも及ぶ奇妙な友情で結ばれていく姿はユーモアにあふれています。

 現場では暴君だったキューブリックが、プライベートでは生活不適応者だったりする可笑しさ。この2作を観ることで、新たなキューブリックの魅力に気付かされることでしょう。

(付記)

直接の関係はありませんが、キューブリックが映画化した『シャイニング』の続編にあたるスティーヴン・キング原作の映画化『ドクター・スリープ』が、この11月29日から公開。『シャイニング』に登場した少年の成長した姿を描いた作品です。

(『キューブリックに魅せられた男』『キューブリックに愛された男』は、どちらも11月1日から公開)

配給:オープンセサミ