”究極の悪”はいかにして生まれたのか? バットマンの宿敵の誕生秘話を新たな視点で描く『ジョーカー』

 ジョーカーというキャラクターは、DCコミックが生んだ『バットマン』シリーズで最も有名なヴィラン(=悪役)です。映画ではジャック・ニコルソンやヒース・レジャー、ジャレッド・レトが演じ、それぞれ独特な個性を見せてきました(ヒースは『ダークナイト』で死後にアカデミー助演男優賞を受賞)。今回ホアキン・フェニックスが演じる『ジョーカー』は、そのキャラクターの原点を、今までとはまったく違った設定で描いたものです。

 しかも、いわゆる“アメコミ映画”にあるような派手なアクションシーンや爽快感は皆無。ひたすらダークに、不幸の連鎖によって狂気の淵に落ち、壊れていく男の姿を描いていきます。そのユニークな視点と容赦のない描写が評価され、ベネチア映画祭で最高賞の金獅子賞に輝きました。

 舞台は80年代初頭のゴッサム・シティ。貧富の格差により治安が悪化、行政は財政難に苦しみ、社会保障費は削減されるばかりで、貧困者は誰の支援も受けられない状況下にありました。そんなスラム化した一角にアーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)という男が暮らしていました。病気の母親(フランセス・コンロイ)を介護しながら、コメディアンになることを夢見る彼は、普段は道化師として働き、“人を笑わせ、笑顔にしたい”と願っています。しかし彼には脳に障害があり、精神が不安定。突然笑いだして止まらなくなることもあるのです。

 やがてアーサーを次々と不運が襲います。彼には何の落ち度もないのに理不尽に職を失い、念願だったスタンダップ・コメディのステージでは発作のせいで立ち往生してしまったのです。さらに、同じアパートの住人ソフィ(ザジー・ビーツ)との絆や家族の情報、大ファンだったTV司会者マーレイ・フランクリン(ロバート・デ・ニーロ)の番組への出演といった心のよりどころが、根底から覆ってしまう事実に直面し、ついに…。

 アーサー役のために20キロ近くの減量に挑んだホアキン・フェニックスの鬼気迫る演技に目が釘付けになります。栄養失調で不健康な、社交性皆無の男が、疲れた笑顔を浮かべながら次第に道を誤っていく姿には切なさもにじんでいくのです。早くもアカデミー賞本命という声があがるのも納得で、もし実現したらヒース・レジャーの助演男優賞に続き、アメコミの同一キャラ(ジョーカー)を演じた俳優が受賞という記録を作ることになります。

 原作にはない、まったく映画オリジナルのストーリーですが、ちゃんと『バットマン』の前史にもなっているのがアメコミ・ファンにはうれしいところ。監督は『ハングオーバー!』シリーズのトッド・フィリップス。しかし作風はまったく違い、主人公が次第に狂っていくところは『タクシー・ドライバー』を、コメディアンに対する憧れは『キング・オブ・コメディ』を彷彿させます。この両作に主演したデ・ニーロを起用したのも、オマージュの一環なのかもしれません。

(『ジョーカー』は10月4日から公開)

配給:ワーナー・ブラザース映画

(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC Comics