こんな香取慎吾、見たことない! ギャンブル狂で暴力的なろくでなしをノーメイクで演じきった『凪待ち』

 香取慎吾が『孤狼の血』の白石和彌監督と組んだ作品。一言で言うと「こんな香取慎吾は見たことない!」。彼が演じるのは、本当にどうしようもないろくでなしなのです。

 競輪以外にはさしたる趣味もなく、毎日を無為にふらふらと過ごしていた木野本郁男(香取)は、年上の恋人・亜弓(西田尚美)、その娘の美波(恒松祐里)と共に、亜弓の故郷である石巻に移って再出発しようとします。ギャンブルから足を洗い、職を得たことで、次第に平穏な暮らしを取り戻しつつある郁男でしたが、ふとしたことがきっかけでヤクザが経営するノミ屋に出入りするようになり、それを知った亜弓とケンカ。しかも別れて帰ったその夜に、亜弓が何者かに殺害されてしまうという悲劇に見舞われます…。

 警察から疑いの目を向けられる郁男。籍が入っていなかったため、このまま亜弓の実家に住み続けることもできず、次第にその生活は荒んでいきます。

 通常の映画ならば、郁男による犯人探しが描かれるのでしょうが、この作品は違います。郁男はひたすらに自分を責め、自暴自棄になり、酒とギャンブルにのめりこんでいくばかりなのです。絶望の淵から抜け出せず、周囲に暴力をふるうことでしか自分を表現できない男を、ノーメイクで演じきった香取の熱演が最大の見どころ。作品のテーマは「喪失と再生」ですが、ほのかな光が見えてくるのはラスト近くなってから。そこまでは徹底して郁男の堕ちていく姿を描いていきます。

 絶望に満ちた男の姿と荒々しい暴力というのは、白石監督らしい題材。その中で、「自分は疫病神だ…」という郁男の後悔の念がひしひしと伝わってくるのです。かといって簡単にそこから脱出させず、徹底的に郁男を追い詰め、傷つけていく演出のねちっこさもまた白石流。ともかく、いつもの明るい「慎吾ちゃん」とはまったく別人の香取慎吾がここにいます。

 共演者たちもいずれも好演を見せています。年下の恋人に包み込むような優しさを見せる亜弓役の西田。郁男とは友だちのような関係で接する美波役の恒松(彼女にもまた不登校だったという過去があります)。吉澤健が演じる亜弓の父・勝美は、末期がんを宣告されていながら気丈に振舞う漁師。物語の進行につれてその存在感が増していくのが、さすが名バイプレイヤーです。その勝美の面倒を見ていたのが亜弓の幼なじみである近所の住人・小野寺役のリリー・フランキー。白石組の常連俳優音尾琢真に加え、不破万作なども出演。

 さて、「喪失と再生」といえば、映画の舞台となった石巻もまた、津波による大いなる喪失を経験した街でもあります。この地を選んだことによって被災地の再生という裏テーマも浮かび上がり、主人公の再生は街の再生とゆっくり重なって見えてきます。ラストのクレジットのバックに映る光景には、そんな思いが託されているように感じたのです。

(『凪待ち』は6月28日から公開)

配給:キノフィルムズ

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