思い出の歌を口ずさむと、亡くなった恋人が戻ってくる。湯浅政明監督の恋愛アニメ『きみと、波にのれたら』

『夜明け告げるルーのうた』でアヌシー国際アニメーション映画祭グランプリ(クリスタル賞)に輝き、『夜は短し歩けよ乙女』では日本アカデミー賞最優秀アニメーション賞とオタワ国際アニメーション映画祭長編部門グランプリを受賞と、世界から注目されている湯浅政明監督の新作。

 千葉の海沿いの小さな港町。サーフィンが大好きな女子大生・ひな子(声:川栄李奈)はこの町に引っ越してきた早々に火事騒動に遭遇。消防士の港(片寄涼太)に救助されたのをきっかけに彼と付き合うようになります。

 序盤は「これ、アニメでやる必要があるの?」と思ってしまうような甘々のラブストーリーが展開。GENERATIONS from EXILE TRIBEでボーカルをつとめる片寄と、元AKB48の川栄という顔合わせですから、季節の移ろいと共に二人の愛が次第に深まっていく様子をデュエットの歌声で表現。それも完璧な歌唱ではなく、ときおり笑いも交えながら進行させていくのです。この、観客をほっこりとした優しさで包み込むような温かい感覚は湯浅作品ならではだと思ったら、実は片寄からの発案だったそうです。目の前でじゃれ合っている恋人同士を見るような、“生”の雰囲気が味わえる名場面。

 しかし、二人で幸せなクリスマスを過ごした直後、物語は暗転します。ひな子を置いて一人で海に行った港は、溺れている人を救おうとして水難事故に遭い、帰らぬ人となってしまうのでした。慟哭のあまり無気力になり、大好きな海を見ることもできなくなったひな子。そんなある日、ひな子が二人の思い出の歌を口ずさむと、水の中に港の姿が現れたのです。「ずっとひな子のことを守ると約束したろ?」そこには変わらぬ港の微笑みがありました。もう会えないと思った港に再び会えたことを喜ぶひな子。けれども、彼の姿は彼女にしか見えないのでした。この奇跡が意味するものは? 二人の恋の行方は?

 水の中にゆらめく、愛する人の姿。ここからのファンタジックな展開こそが湯浅作品の独壇場です。決まった形を持たない「水」の質感が、なんともユニーク。そんな中で、ひな子の揺れる気持ちが描き出されていきます。ようやく自分の想い人に会えたとしても、触れ合うことすらできない。でも彼には消えてほしくない…。そんな彼女を見守るのは、港の妹の洋子(松本穂香)と港の後輩の消防士・山葵(伊藤健太郎)。やがて彼らはある“事件”に遭遇し…。

 クライマックスには躍動感あふれるスペクタクルな見せ場が用意されていて、それぞれの人の想いがほとばしる感動の場面が展開します。ダイナミックな構図の中、キャラクターが自由自在に動きまわり、観ている側も幸せな気分にさせてくれるのです。「自信の持てなかった自分」から脱却し、「これからの進む道」を見出していくひな子の成長に、清々しい気分をもらえるさわやかな青春ラブストーリー。劇中何度も歌われ、耳に残る主題歌「Brand New Story」を歌うのは、もちろんGENERATIONS from EXILE TRIBEです。

(『きみと、波にのれたら』は6月21日から公開)

配給:東宝

(c)2019「きみと、波にのれたら」製作委員会

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