映画でも、彼女の「うた」に手が届く…、中島みゆき『夜会工場VOL.2』劇場版

「みゆきの『うた』に手が届く」。これが1989年に中島みゆきの「夜会」が始まった際のキャッチコピーでした。会場が観客席約750の小規模な劇場(東京・渋谷のシアターコクーン)、開演が夜の8時からという、彼女ほどのビッグネームにしては珍しい形式のコンサートで、当初は既発表の曲を並び替えることによって楽曲に新たな意味を見出そうとする「歌の実験劇場」でした。やがてそこに物語やセリフが加えられて次第に演劇的な要素が強くなり、95年からはすべて新曲による音楽劇へと変化していきました。ひとりのミュージシャンが脚本を書き、作詞作曲、主演、演出も兼ねるという前代未聞の舞台は、今年30周年を迎えます。

 しかし、装置に凝り、時には雪や雨まで実際に降らせてしまう大がかりな舞台は全国を回るツアーを行なうことが難しく、一部(ほとんど東京)のファンだけしか実際には見られない(VOL.2以降は映像ソフトとして発売されていますが)という不満点もありました。そこで企画されたのが「夜会工場」です。これはオペラで言うところのガラコンサート。各「夜会」の名場面や楽曲を再構成した、ダイジェスト版として行なわれるものです。今回劇場版映画として公開される『夜会工場VOL.2』は2017年11月から18年2月まで、東京・名古屋・大阪・福岡の4都市で行なわれた公演から、東京Bunkamuraオーチャードホールでのコンサートを収録したもの。

 実際のスタッフが機材を組み上げていく様子を見せるところから始まり、最初の「夜会」のオープニングシーンと同じセットで、その1曲目だった曲で始まるという、ファンにはうれしい構成。第1回の「夜会」から「夜会VOL.19『橋の下のアルカディア』」までの楽曲が全29曲と2編のポエムという形で披露されていきます。それぞれの「物語」から離れて、約130分の間、純粋に楽曲そのものに触れることができるのです。

 共演は、過去の「夜会」でおなじみの植野葉子、香坂千晶、中村中、石田匠、杉本和世、宮下文一といった面々。彼らの歌が大々的にフィーチャーされているのが大きな特徴で、さながら「中島みゆき一座」か「チーム夜会」といった風情。本人の歌唱ではなく、彼ら彼女たちのパフォーマンスで聴かせることによって、楽曲の持つ別の魅力が引き立つ部分もあるのです。

 客席から見るコンサートとは違い、演者の表情に迫ることができるのが映画版のいいところ。細かなニュアンスまでが伝わってきて、まさに「みゆきの『うた』に手が届く」感覚が味わえます。彼女の歌を聴いていると、そこにドラマのような情景が浮かび、その中に自分自身もいるような気分になっていく…。大音量の5.1サラウンドで体感すると臨場感も増しますから、なるべく音響設備のいい映画館でご覧になるのをおススメします。

(付記)

「夜会」のテーマであり、毎回何らかの形で歌われてきた「二隻の舟」は今回、あえてインストでの使用になっています。

(中島みゆき『夜会工場VOL.2』劇場版 は5月3日から公開)

配給:ローソンエンタテインメント

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