原作者自ら”最高傑作”と呼んだミステリーがついに映画化『アガサ・クリスティー ねじれた家』

 アガサ・クリスティー原作のミステリーの映画化。エルキュール・ポワロやミス・マープルといった有名探偵キャラクターが登場しないためか、知名度はそれほど高くないのですが、作者自身は「自作の探偵小説の中でも最も満足している2作のうち1本」と自伝の中で語っています。また、別の場所では「私のベストの一つ」とも。では、自身が最高傑作と認めていながら、なぜ今まで映画化されてこなかったのか? その理由は後ほど考えることにして、まずはストーリーの概要をご紹介。

 ギリシアからイギリスに渡り、無一文から大富豪に成り上がった伝説の人物アリスティド・レオニデスが急死しました。その孫娘ソフィア(ステファニー・マティーニ)が元恋人の私立探偵チャールズ・ヘイワード(マックス・アイアンズ)のもとを訪ね、一族の調査を依頼します。レオニデスは一族の誰かに毒殺された疑いがあるというのです。レオニデスの豪邸には、一族が揃って暮らしていました。

 一族を束ねる、レオニデスの先妻(すでに故人)の姉であるイーディス(グレン・クローズ)以下の面々はそれぞれいわくありげな者ばかり。長男夫妻は映画製作の資金繰りに苦労していますし、父の事業を継いだ次男の会社は倒産寸前。後妻となった若いアメリカ人ブレンダ(クリスティーナ・ヘンドリックス)は、どうやら孫たちの家庭教師と愛人関係にあるらしい。反抗期真っ只中のソフィアの弟は姉に疑惑を感じていて、末っ子の少女は探偵気取りで家の中をかぎまわりノートに何かを記しています。莫大な遺産のことを考えると全員に動機があり、殺害の機会も誰にでもあるのです。しかもチャールズがようやく真相らしきものに近づいた頃、第二の殺人が起きてしまい…。

 ある家族の秘密が暴かれるという、いかにもクリスティー好みのミステリーですが、殺人は冒頭で起きてしまい、あとは探偵(しかも天才肌ではないチャールズ)が地道な聞き込みを続けていくという派手さに欠ける展開。そこで製作者たちは思い切ったアイディアを投入しました。49年に書かれた原作の時代背景を50年代末~60年代初頭のロックンロール・エイジに移し、チャールズの職業を外交官から元外交官の私立探偵に変えてしまったのです。生まれたのは、さながらハードボイルド探偵映画の雰囲気。光と影を印象的に使い、チャールズとソフィアはエジプトでの外交官時代を振り返ったり、スウィング・ジャズが流れる中でダンスを踊ったりもします。

ハードボイルドなフィルムノワールのムードも漂う
ハードボイルドなフィルムノワールのムードも漂う

 脚色は『ゴスフォード・パーク』でアカデミー脚本賞を受賞し、人気TVシリーズ『ダウントン・アビー』の企画・脚本も手がけたジュリアン・フェロウズ。『サラの鍵』のジル・パケ=ブレネールが監督し、クラシカルなミステリーをモダンなクライム・サスペンスに再生しているのです。

 さて、刊行当時、衝撃のラストをめぐって、出版社がクリスティーに向かって“その部分を変えられないか”と頼んだというエピソードが残っています。今まで映画化されてこなかったのは、それが原因と思われ、21世紀になって、ようやく時代が彼女に追いついたと言えるのかもしれません。

 主演のマックス・アイアンズはイギリスの名優ジェレミー・アイアンズの息子。『危険な情事』の大女優グレン・クローズがさすがの貫禄を見せています。他にも『眺めのいい部屋』のジュリアン・サンズ、『X-ファイル』のジリアン・アンダーソン、『イギリスから来た男』のテレンス・スタンプらも共演。

(付記)

 ちなみにクリスティーのお気に入りのもう1作は「無実はさいなむ」。こちらは『ドーバー海峡殺人事件』として1984年に映画化されています。

(『アガサ・クリスティー ねじれた家』は4月19日から公開)

配給:KADOKAWA

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