ピーター・パーカー死す! しかしヒーロー物語はまだ終わらない…『スパイダーマン:スパイダーバース』

 アカデミー賞とゴールデングローブ賞のアニメーション作品賞をW受賞した作品。スパイダーマンの映画ですが、いつもの“スパイダーマン=ピーター・パーカー”の物語ではありません。本作の主人公はアフリカ系とプエルトリカンのハーフの少年マイルス・モラレス。しかもスパイダーマンであるピーターは、ヴィランのキングピンの手によって殺されてしまうのです! なぜそんなことが起きるのかというと、これが「マルチバース」での出来事だから。

 ここでマルチバースという概念について説明しておきましょう。アメコミは長い歴史を持つゆえに、何度もその時代に合わせたリブートが行なわれ、それによって設定の異なったヒーローがいくつも誕生していきました。それらは多元宇宙(マルチバース)にそれぞれ独立して存在しているという設定だったのですが、2014年から15年にかけて、あらゆる次元のスパイダーマンが次元の壁を越えて集結する「スパイダーバース」というシリーズが複数の雑誌で展開されました。登場するスパイダーマンの数、なんと100人以上! それを基にしてストーリーが練られたのが今回の映画なのです。

複数のスパイダーマンが共闘する
複数のスパイダーマンが共闘する

 特殊なクモに噛まれたことでスパイダーマンの能力を手に入れたマイルス。しかし彼がまだそれを自在に使えるようになる前に、先輩スパイディであるピーターが殺害されてしまいます。悔しさに震えながらピーターの墓の前に佇むマイルス。そこに、不思議な男が降ってきます(このくだりは『ヴェノム』のエンディングにおまけについてきたエピソードですね)。彼は別次元から来た中年ピーター・パーカー。すっかりたるんだ体で、MJとも離婚しています。さらに、グウェン・ステイシーが能力を得たスパイダー・グウェン、1930年代の雰囲気をまとったモノクロのスパイダーマン・ノワール、未来から来たロボットのSP//drを操るペニー・パーカー、ブタの能力を得たクモだというスパイダー・ハムも登場。彼らは力を合わせて、次元を歪ませようとするキングピンの野望を阻止するために闘うことになるのです。

 映像技術的には現在最高峰のものが投入されていて、CGアニメの滑らかさが楽しめるかと思えば、時に手描きのアメコミ風に、ジャパニメーション風にと変幻自在。カートゥーンになりきる部分もあるのです。実写版の映画をオマージュしたそっくりのシーンもあったりしてファンサービスもたっぷり。ヴィランも、キングピンをはじめ、グリーンゴブリン、ドクター・オクトパス、トゥームストン、スコーピオン、プラウラーとオールスターキャスト(それぞれが実写版とは違うスタイルで出てくるのもお楽しみ)。

 しかし何といってもこの映画が素晴らしいのは、少年のヒーローへの憧れをストレートにうたい上げていることです。このところ、悩める中年が主人公のヒーローものが多かったのと比べると、本作は、「未熟な少年が正義の心に目覚め」「仲間と信頼しあうことで成長し」「最後は勇気を持って巨大な敵に立ち向かう」という、ヒーローものの王道を突き進んでいるのです。だから最後にスパイダーマンとしての自覚を持ったマイルスの飛翔シーンは、たまらなく爽快!

 声の出演はオリジナル版ではヘイリー・スタインフェルド、ニコラス・ケイジ、クリス・パイン、リーヴ・シュレイバー、マハーシャラ・アリなどが担当していますが、吹替版キャストも、小野賢章、宮野真守、悠木碧、大塚明夫、吉野裕行、玄田哲章、高橋李依と豪華なので、どちらで観るか迷うところですね。

(付記1)

 コミックの「スパイダーバース」には70年代に東映が実写化した日本版スパイダーマンも巨大ロボットのレオパルドンとともに参戦したのですが、残念ながら今回の映画では見送り。しかし、続編の可能性も示唆されているので、そのうち実現するかも?

(付記2)

 今作の主人公マイルスの叔父にあたる人物は、実は『スパイダーマン:ホームカミング』に顔を見せています。すると、いずれ実写版にマイルスが登場する可能性も…。

(『スパイダーマン:スパイダーバース』は3月8日から公開)

配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント