埼玉ディスり映画? いえいえ、実は埼玉愛にあふれた痛快コメディーなのです!『翔んで埼玉』

百美(二階堂ふみ)と麗(GACKT)

 原作は『パタリロ!』で知られる魔夜峰央が、1982~83年にかけて発表した未完のコミック。80年代に一度出版されていますが、当時はほとんど話題にならず、最近になってSNSや深夜バラエティで取り上げられたことによって脚光を浴び、再刊されてベストセラーになりました。埼玉に対する強烈なディスりの数々が笑いを呼んだ異色作。それが、なんと実写版として映画化されたのです。

 その昔、埼玉県人は東京都民から、徹底的な差別を受けてきました。通行手形がなければ東京に出入りすることはできず、発見されると強制送還されてしまうのです。そんな中、都内の名門校・白鵬堂学院にアメリカ帰りの帰国子女・麻実麗(GACKT)が転校してきます。彼のことが気になって仕方のない生徒会長の壇ノ浦百美(二階堂ふみ)。しかし、実は麗は埼玉県有数の大地主・西園寺家の子息であり、通行手形制度撤廃の密命を受けて潜入していたのです。やがて二人の出会いをきっかけに、埼玉県の運命は大きく変わることに…。

 まず、ビジュアル的に魔夜峰央(本人も冒頭に登場)の世界を完全再現しているのがすごい。GACKTの出演は原作者直々のオファーだったそうで、デフォルメされた演技や設定、美術がインパクト大。これを俳優たちが何の照れもなく、大真面目に演じています。「邦画史上最大の茶番劇」というのが映画の宣伝コピーですが、それに恥じないスペクタクルなお話なのです。監督は『テルマエ・ロマエ』『のだめカンタービレ』シリーズで知られる武内英樹。

阿久津(伊勢谷友介)率いる千葉解放戦線も参戦
阿久津(伊勢谷友介)率いる千葉解放戦線も参戦

 二階堂が演じている百美は男装女子ではなく、れっきとした男性の設定。これは魔夜作品おなじみのボーイズラブ描写を、男女の俳優に演じさせることでソフトに見せる効果を狙ったものか。伊勢谷友介、京本政樹、中尾彬、麿赤児、武田久美子、竹中直人、加藤諒など、いかにもな濃い顔ぶれが、特異な役柄を力いっぱい演じているのですから、たいへんディープな映画です。バカバカしいことを真剣にやる、これがコメディーにとって大切なことですよね。

 さて、原作が未完なので、映画は後半に至り、埼玉と「永遠のライバル」千葉との争いに焦点が当てられていきます。さらに「秘境」群馬(原作では、このポジションは茨城でしたが…)や、事態を高みから見物している神奈川も巻き込んで大騒ぎに。現代の視点から過去を振り返るという原作にない設定を導入、埼玉県出身の夫(ブラザートム)と千葉県出身の妻(麻生久美子)が、結納を控える娘(島崎遥香)を乗せた車で走行中にラジオから流れる番組とともに進行していくという入れ子構造の脚色も巧みです。

原作にない現代パートが登場
原作にない現代パートが登場

 ところで、埼玉に対するディスりネタ満載の映画ですが、決してただ一方的に埼玉を貶めようとしているわけではありません。自虐と差別の嵐の果てに、クライマックスではあふれんばかりの「埼玉愛」が待っていますので、埼玉県人の皆さんも安心してご覧ください。はなわ(てっきり佐賀の人だと思っていたら、なんと埼玉生まれだとか)によるエンディング・テーマに至るまで大笑いできる快作なのです。

(『翔んで埼玉』は2月22日から公開)

配給:東映

(c)2019映画「翔んで埼玉」製作委員会