ナチス将校の軍服を手に入れた脱走兵が、収容所の支配者にのし上がって大量虐殺を開始『ちいさな独裁者』

 毎月のように公開されるナチス関係の映画。この『ちいさな独裁者』もその1本で、信じられないことに実話です。

 時は1945年4月。敗色濃厚なドイツでは兵士による略奪や脱走などの軍紀違反が相次いでいました。ヴィリー・ヘロルト(マックス・フーバッヒャー)もそんな脱走兵の一人。飢えと寒さに苦しみながら荒野をさまよう彼は、乗り捨てられた軍用車両の中に置かれたスーツケースからナチス将校の軍服を発見します。寒さをしのぐためにそれを着用していたヘロルトを、部隊からはぐれた生真面目な上等兵フライターク(ミラン・ペシェル)が本物の将校と勘違い。ヘロルトはこれを利用して、このまま将校に成りすますことを決意したのです。

 途中で出会ったはぐれ者の兵士たちを寄せ集め、「後方の動静を調べる」という総統からの極秘任務をでっち上げたヘロルトは“ヘロルト親衛隊”を結成。軍紀違反兵士の収容所にたどり着いた彼は、またたく間にそこの全権を掌握、囚人の大量虐殺を開始してしまいます…。

 戦場の狂気の中で「権力とは何か」を問いかける作品。たった一着の軍服が、権威を生み出し、ただの一兵卒を恐るべき独裁者にのし上げてしまいます。この怪物を生み出してしまったものは権力への盲従、上からの命令を疑うことなく実行するシステムにあります。そして思わぬ権力を得た者は、それを自由に行使する快感に酔いしれ、次第に常軌を逸していくのです。自分の行為をすべて正当化しながら…。

 監督はロベルト・シュヴェンケ。ドイツ出身ながら、ハリウッドで『きみがぼくを見つけた日』『RED/レッド』『ゴースト・エージェント/R.I.P.D.』といったヒット作を連打してきた人で、これは母国ドイツで手がけた15年ぶりの作品になります。当時のドイツを国家社会主義が支配し、誤った戦争になだれ込んでいった理由に興味があったという監督は、「どこにでもいる“小市民”こそが、ナチスの体制を生きながらえさせた“末端の加害者”である」という発想から、この映画を着想したのだそうです。それはたとえば、最初は温厚な常識人だったフライタークまでもが、いつしかヘロルトの残虐行為に嬉々として参加していく姿からも感じることができます。

 ハリウッド仕込みの演出も巧みで、前半はヘロルトの正体がバレはしないか…というサスペンスで引っ張り(この時点では観客の視点はヘロルトのそれと重なっています)、後半はエスカレートする行為の中で人間の心の闇の部分をこれでもか、と抉り出すのです。「あえてユーモアとか、共感できる登場人物とかを排除した」という脚本には救いがなく、そのために演じた俳優たちも精神的に追い詰められ、処刑シーンなどを撮影した直後にはショック状態に陥ったり泣き出したりする人が続出したとか。

 もちろん、「こんな事件があった」ということが言いたいだけの映画ではないことは明らか。監督はこう語っています。「彼らは私たちだ。私たちは彼らだ。過去は現在なのだ」

(『ちいさな独裁者』は2月8日から公開)

配給:シンカ/アルバトロス・フィルム/STAR CHANNEL MOVIES

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