ユダヤ人絶滅を推進した男は、いかにして”金髪の野獣”になったのか?『ナチス第三の男』

 邦題になった『ナチス第三の男』とはラインハルト・ハイドリヒのこと。ヒトラー、ヒムラーに次ぐ実力者で、その冷徹極まりない手腕によって“金髪の野獣”と呼ばれて恐れられました。(ドイツ国内では“鋼鉄の心を持つ男”と呼ばれ、これが原題になっています)

 ハイドリヒをめぐる物語は、これまでにも『死刑執行人もまた死す』(1943)『暁の7人』(1975)『ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦』(2016)と何度も映画化されていますが、いずれもハイドリヒ暗殺(戦時中に唯一成功したナチス高官暗殺計画だった)を描くもの。本作ではハイドリヒがいかに成り上がっていったかの過程をも描いているのが大きな特徴です。

 この前半部分が大きな見どころ。海軍士官学校を出て通信将校となったハイドリヒ(ジェイソン・クラーク)は社交場で出会った貴族階級の娘リナ(ロザムンド・パイク)に魅了され、婚約しますが、奔放な女性関係が問題になり不名誉除隊を余儀なくされてしまいます。失意の彼を励ましたのは、熱心なナチ党支持者であるリナでした。ハイドリヒは彼女の勧めでナチス党親衛隊(SS)指導者ハインリヒ・ヒムラーの面接を受けることになりますが、ヒムラーはSS内部に立ち上げる予定の情報部を彼に任せることにしたのです。

リナ(ロザムンド・パイク)とハイドリヒ(ジェイソン・クラーク)
リナ(ロザムンド・パイク)とハイドリヒ(ジェイソン・クラーク)

 ナチ党に入党したハイドリヒの快進撃が始まります。出世欲にかられた彼は、共産主義者の狩り出しに没頭。ドイツ全土にSS保安部(SD)の情報網を張り巡らし、ヒトラー政権成立後はゲシュタポ(秘密国家警察)を手中に収めると、警察機構とSDを統合させて国家保安本部(RSHA)とし、その長官となって権勢をふるったのです。彼の「敵」は共産主義者にとどまらず、政権内部にも向けられ、脅迫行為も辞さない徹底したやり口は、周囲からは有能だが危険な男として一目置かれるように。やがて彼はユダヤ人大量虐殺をとなえ、保護領となったチェコスロバキアの副総督(事実上の総督)として絶大な権力を握っていきます。

ナチズムの台頭と共にハイドリヒも出世していく
ナチズムの台頭と共にハイドリヒも出世していく

 クラークがハイドリヒの冷酷で底知れぬ闇を抱えた不気味さを見事に体現。最初は妻に尻を叩かれていた頼りない夫だったハイドリヒが、次第に化け物のような成長を見せ、誰にも抑えることができなくなっていく姿を圧倒的な存在感で演じています。自分の生み出してしまったモンスターにおののくロザムンドの演技も光るところ。

後半は若者たちによる暗殺劇へと転調していく
後半は若者たちによる暗殺劇へと転調していく

 後半は一転してハイドリヒの登場シーンは減り、チェコスロバキア亡命政府から派遣された二人の若者ヤン(ジャック・オコンネル)とヨゼフ(ジャック・レイナー)が、現地のレジスタンスの協力を仰ぎながら、ハイドリヒ暗殺計画を実行する姿と、暗殺後の容赦のない報復劇を描きます。こちらは過去に映画化されたものと筋立ては基本的に同じ。ヤンと協力者のアンナ(ミア・ワシコウスカ)とのロマンスも描かれ、青春映画の趣きもあります。一本の作品で二つの違った映画のテイストが味わえるというわけですが、やはりこの映画の魅力は前半部分にあると言えるでしょう。

 監督はドキュメンタリー出身のフランス人セドリック・ヒメネス。フランス、イギリス、ベルギー合作で、キャストは米英豪から選ばれ、ドイツ人のセリフも英語。流麗な音楽がドラマチックな効果を上げています。原作はNYタイムズで“注目すべき本”に選ばれたベストセラーで、本屋大賞でも翻訳部門の1位に選ばれた『HHhH プラハ、1942年』。原作者のローラン・ピネはこの映画について「小説と別物ではあるけれど(中略)、素晴らしい映画だ」と語っています。

(『ナチス第三の男』は1月25日から公開)

配給:アスミック・エース

(C)Photo by Bruno Calvo All rights reserved

チェコ側の視点でハイドリヒ暗殺を描いた『ハイドリヒを撃て!』のレビューはこちら