離れ離れになった少年少女の魂が起こした愛の奇跡を幻想的に描く『シシリアン・ゴースト・ストーリー』

 タイトルは『シシリアン・ゴースト・ストーリー』ですが、ホラー映画ではありませんし、先日紹介した『A GHOST STORY』とも違い、幽霊は出てきません。本作の場合、「ゴースト」は「霊魂」「魂」と解釈するべきでしょう。『ゴースト・イン・ザ・シェル』の「ゴースト」に近いかな?

 1993年に、イタリアのシチリア島で実際にあった事件をモチーフにしたもの。しかし、その事件について詳しく述べるとストーリーのネタばれになってしまうので、知らずに観た方がいいでしょう。

 前半は少年と少女の初々しい恋物語が展開。少年ジュゼッペと同級生の少女ルナの穏やかな日常が描かれます。少年への少女の淡い想いがどんどん高まっていき、渡しそびれたラブレターを手渡すぎこちなさ。そして彼女の告白に応える彼からの優しいキス。しかし、そんな幸せな日々は長くは続きません。ある日突然、ジュゼッペは行方不明になってしまったのです。

 彼の家族は沈黙を貫き、ルナの質問にも答えてくれません。それどころか町の人々はすべてこの事件に無関心を装います。それにはシチリアならではの事情がありました。ジュゼッペはマフィアに誘拐されていたのです。ジュゼッペの父親も組織の一員であり、検察に内部情報を証言しようとしていたところ。ジュゼッペは父親の口封じのための人質でした。彼は警察を名乗る男たちに連れ出されたのですが、彼らが警官に扮したマフィアなのか、マフィアに買収されている本物の警官なのか明らかにされないあたりからも、風光明媚なこの地に潜む暗い影を感じずにはいられません。

後半は寓話的な世界が展開する
後半は寓話的な世界が展開する

 さて、恋する少女には、そんな大人の事情など関係ありません。ルナは希望を捨てることなく、必死でジュゼッペを探し続けます。そのためなら不法侵入などの危険な行為も辞さないルナ。ポーランド生まれのユリア・イェドリコヴスカが彼女に扮していますが、決意に満ちた凛とした表情と目力の強さが印象的。対するジュゼッペ役のガエターノ・フェルナンデスは美少年ぶりが光ります。乗馬服に身を包んだその姿は、ちょっと『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメを思わせ、女性人気を集めそう。

 監禁されたままの(史実では779日間にも及んだ)ジュゼッペは身体的・精神的苦痛と闘いながら、握りしめたルナからの手紙を唯一の心のよりどころにしていきます。一方、激しいルナの想いは、夢や幻想の世界に迷い込み、ここから映画は厳しい現実から不可思議なファンタジーの世界に向かっていくのです。監督はカンヌ映画祭の批評家週間でグランプリを受賞したことのあるファビオ・グラッサドニアとアントニオ・ピアッツァのコンビ。『グレート・ビューティー/追憶のローマ』の撮影監督ルカ・ビガッツィがとらえたシチリアの風景が美しく、特に水のイメージが鮮烈です。

 遠く離れた場所にいる二人の魂が奇跡のようにめぐり合うクライマックスは、鳥肌が立つような感動を与えてくれます。ルナの役は映画用に創造されたキャラクターですが、彼女の存在によって、監督たちは現実の世界では与えられなかった“救い”を描こうとしたのではないでしょうか。少年と少女の幻想的ラブストーリーは、生と死と再生を描き、いつまでも余韻を残してくれます。

(『シシリアン・ゴースト・ストーリー』は12月22日から公開)

配給:ミモザフィルムズ

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