92年のLA暴動に、ささやかな幸せを願って生きる市井の人々が巻き込まれていく…『マイ・サンシャイン』

『マイ・サンシャイン』というタイトルから、感動のファミリーものを想像する方もいるかもしれません。確かに“家族”を描いた映画には違いありませんが、テーマはもっと深刻なもの。観客を1992年4月のロサンジェルス・サウスセントラル、そう、あのLA暴動の夜に連れていくのです。

 主人公のミリー(ハル・ベリー)は家族と暮らせない子供たちを引き取って育てています。決して裕福ではなく生活は苦しいけれど、彼女の愛情に包まれ、居場所を見つけた子供たちは笑顔にあふれた日々を送っていました。隣人のオビー(ダニエル・クレイグ)はいつも騒々しい子供たちに文句をつけながらも、実は彼らを守ってくれたりもしています。

 しかし1991年、黒人男性ロドニー・キングが白人警官たちから理不尽な暴力を加えられ、その様子を撮影した映像が流出したことで世間が騒然となった事件に続き、15歳の黒人少女ラターシャ・ハーリンズが万引き犯と間違えられて韓国系の女性店主に射殺された事件が起きてしまいます。特にラターシャ・ハーリンズ事件では保護観察処分と500ドルの罰金だけで収監なしの判決が下り、市民の不満がたまっていったのです。

 そして92年4月、ロドニー・キング事件の公判で集団暴行をした4人の警官に無罪判決が出たことで市民の怒りが爆発。白人と韓国系商店を標的にした暴動が起きてしまいました。ミリーの子供たちの中にも積極的に暴動に加わろうとする者やそれを止めようとする者が出る一方、年少の子供たちは市民が商店から略奪している映像をテレビで見てうきうきと買い物気分で店に向かっていきます。家に取り残されたのは幼い子供たちだけ。ミリーとオビーは子供たちを保護しようと、混乱を極めた夜の街を奔走するのですが…。

ミリー(ハル・ベリー)と子供たちの結びつきは強い
ミリー(ハル・ベリー)と子供たちの結びつきは強い

 この作品は、歴史的事件を俯瞰することなく、あくまでも庶民の目線で描いていきます。前半はミリーと子供たちの生活を活き活きと描いているだけに、それが混沌に巻き込まれていく後半の暴動の場面が胸に突き刺さってきます。

 また、暴動だけを描いているのではなく、青春の痛みもここにはあります。ミリーの家で一番の年上、真面目に弟妹の面倒を見ているジェシー(ラマー・ジョンソン)には同級生の気になる女の子ニコール(レイチェル・ビルソン)がいました。家を失った彼女もミリーが引き取ることになったのですが、ニコールはジェシーではなく、母親が逮捕されたことでミリーの家に来た素行に問題ありのウィリアム(カーラン・ウォーカー)に惹かれていきます。失意のジェシーでしたが、血の気の多いウィリアムが暴動に加わろうと家を出たため、必死で彼を連れ戻そうとするのです。

 いくつもの視点が切り替わりながら、LAが荒れ狂った夜が描かれます。そこにあるものはすべて現実に起こったこと。ミリーもまた実在の人物なのです。演じるハル・ベリーは限りない母性を感じさせる好演。ダニエル・クレイグはジェームズ・ボンドとはまったく違った短気で粗野な男を演じています。しかも、これがお見事。『ローガン・ラッキー』でもそうでしたが、彼には英国紳士よりもチンピラの少し入ったアメリカンの荒くれ者の方が適役なのかもしれません。

 ところで、この映画の原題は『KINGS』ですが、王族など出てくるはずもなく、これは「数多くのロドニー・キングたちがいる」という意味なのでしょう。アメリカ製作の映画ではなく、トルコ生まれの女性監督が撮ったフランス=ベルギー合作映画であるということも考えさせられます。もちろん、過去の出来事を描いてはいますが、現在、そして未来へのメッセージが含まれているのです。

(『マイ・サンシャイン』は12月15日から公開)

配給:ビターズ・エンド、パルコ

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