地獄の刑務所へようこそ。生き抜くためにはムエタイで勝ち続けるしかない…。衝撃の実話『暁に祈れ』

 この映画を観てまず思ったのが、「絶対にこの国で罪を犯して刑務所に入れられるのはいやだ」ということでした。そこは、まさに“生き地獄”。しかも驚くべきことに、この映画は実話に基づくものなのです。

 イギリス人ボクサーのビリー・ムーア(ジョー・コール)は、タイで闇社会のムエタイ試合に出ていましたが麻薬中毒になり、逮捕されてしまいます。彼が収監されたチェンマイの刑務所は、想像を絶するものでした。暴力やレイプは当たり前。看守には汚職が横行し、弱い者はあっさり殺されてしまいます。この部分の陰惨な描写は、まさに目を覆いたくなるほど。

 撮影は実際の刑務所で行なわれ、登場する囚人たちもすべて本物の元囚人ということでリアルさを追求。彼らの全身に彫られたタトゥーも映画用のものではなく、本物なのです。しかも、映画は囚人たちのタイ語(たぶん)の会話に字幕を付けてくれません。周りで何が話されているのかわからない恐怖感が、ひしひしと伝わってきます。言葉の通じない(しかも周りにいるのはすべて凶悪な顔をした男たちばかりの)異国の刑務所に入れられたことを想像すると…。

 とはいえ、ビリーも決して品行方正な人物ではありません。看守から譲り受けたヘロインの中毒になり、クスリと引き換えに他の囚人をリンチする仕事を引き受けたりもするのですから。

ムエタイだけが、ビリーが生き延びる術だった
ムエタイだけが、ビリーが生き延びる術だった

 そんな彼が変わっていったのは刑務所内のムエタイ・クラブの存在を知ったことでした。ここにいれば身の危険を感じることなく生きていける。そう思ったビリーは練習に打ち込んでいきます。ここからは壮絶なファイトシーンの連続。本物のムエタイ・チャンピオンも出演してリアルな殴り合いが繰り広げられていくのです。刑務所対抗の囚人ムエタイ対決が行なわれていたというのはかなりの驚きですが。

 しかし、彼の肉体は長年の不摂生によって蝕まれていました。にもかかわらず、勝たなければ莫大な借金を取り立てられる試合が迫っていたのです…。

 主役のコールは何か月間にも及ぶ肉体改造を行ないボクサーの体を作り上げ、約30日に及ぶ撮影期間の毎日、格闘シーンを撮影したそうです。彼以外のキャストはほとんどタイ人で、役柄と同じような孤独の中での撮影だったようで、その臨場感はものすごく、観客にも刑務所生活を疑似体験させてくれるのです。試合のシーンをワンカットの手持ちカメラで追う場面もあって迫力たっぷり。異様なまでの迫力を感じさせてくれる映画です。監督は『ジョニー・マッド・ドッグ』でも少年兵役に本物の元少年兵を起用したジャン=ステファーヌ・ソヴェール。原作者のビリー・ムーアもラストでビリーの父親役で登場。強い印象を残します。

(『暁に祈れ』は12月8日から公開)

配給:トランスフォーマー

(c) 2017- Meridian Entertainment- Senorita Films SAS