民間伝承の化け物が襲いかかってくる中島哲也監督のホラー『来る』。しかし、本当に恐ろしいものとは…?

 原作は第22回日本ホラー小説大賞を受賞した「ぼぎわんが、来る」(澤村伊智・著)ですが、映画でははっきりそのものの名が語られるわけではなく、むしろ人の心の闇に焦点が当てられているのが『告白』『渇き。』の中島哲也監督らしいところ。

 オカルトライターの野崎(岡田准一)のもとに相談に訪れたのは、ごく普通の会社員・田原(妻夫木聡)。最近、彼や妻の香奈(黒木華)、娘の知紗の周囲で超常現象としか思えない奇妙な出来事が起きている、ということで、親友の民俗学者・津田(青木崇高)の紹介で野崎を頼ってきたのです。野崎は霊媒師の血を引くというキャバ嬢・真琴(小松菜奈)と共に調査を始めますが、田原家に憑いている「何か」は想像をはるかに超える強力なものでした。やがて真琴の姉で“日本最強の霊媒師”と呼ばれる琴子(松たか子)が出馬することに…。

 民間伝承にある「悪さをすると化け物がやって来て山に連れ去ってしまうぞ」という言い伝えが、時を超えて現実の恐怖として襲いかかります。前半は田原の視点で、忍び寄る怪異がじわりじわりと描かれるのですが、そこは中島監督。ホラー映画とはいえ、すぐに化け物を出すのではなく、人間の心の中に宿る醜さが徐々に露わになっていくのです。婚約者の香奈を連れて故郷に帰った田原の親戚たちが法事の席で見せる姿から、すでに禍々しい雰囲気にあふれ、めでたいはずの結婚式のシーンでも友人や同僚の好意的でないつぶやき、見るからに怪しい香奈の母の姿など、平穏な日々が今にも崩れ去りそうな危なっかしい感じがぐいぐいと伝わってくるのです。

 妻夫木は、一見理想的なイクメンパパが見せる二面性を相変わらずの軽やかな演技でこなし、黒木は育児ノイローゼ気味の悩める主婦の心の中の“毒”を見せてくれます。中島監督の『渇き。』で鮮烈な印象を残した小松がイメージをがらりと変えたキャバ嬢役を熱演。松はカリスマ性を持った神秘的な霊媒師の役をものすごい迫力で演じています。主演の岡田はお得意のアクションを封印、不遜さと人の好さが共存してなかなか人物像がつかめない野崎という男の役で今までにない顔を見せてくれます。主演級の役者が揃った演技合戦は見もの、原作の続編ではこの中の何人かは再登場してくるので、映画でも続きが観たいもの。

 さて、迫りくる「何か」は知人の声や形を真似て、人の心の弱さにつけこんで来ます。しかも時には強大なパワーを持って物理的に襲いかかってくることも。クライマックスはあらゆる宗教の霊媒師や僧、巫女などが琴子の呼びかけで集結して行なわれる、日本映画空前のスケールの「祓いの儀式」。この迫力はキャッチコピーの「最恐エンターテインメント」の名に恥じないものですが、最後まで印象に残るのは、「人が心の中に抱える“闇”こそが最も恐ろしい存在である」ということなのです。

(『来る』は12月7日から公開)

配給:東宝

(c)2018「来る」製作委員会