表情も言葉もなく佇むだけの幽霊の存在が、たまらなく切ない!『A GHOST STORY』

 こんなタイトルですが、ホラーではありません。静寂感に満ちた、この上なく切ない映画なのです。

 田舎町の一軒家、作曲家のC(ケイシー・アフレック)と妻のM(ルーニー・マーラ)はごく普通の平穏な日々を送っていました。ただ、その家では時おり妙な物音がするのです…。やがてCは家の前で起きた自動車事故で突然命を落としてしまいます。しかし、病院のベッドに寝かされていた彼の遺体は、被せられたシーツごと立ち上がり、家へと戻っていきます。

オスカー俳優ケーシー・アフレックがCの役(ほとんど顔は見えない)
オスカー俳優ケーシー・アフレックがCの役(ほとんど顔は見えない)

 目のところだけ穴の開いたシーツを被った姿は、まるで昔のアメリカのマンガやアニメに出てきた“絵に描いたようなゴースト”。妻はそんなCに気が付かず、Cもまた妻に話しかけることも触れることもできません。ただ、愛する夫を失って悲しみにくれるMをじっと見つめるだけ。そして、新たな道を探すためにMが家を去って行っても、Cはまだこの家にたったひとり残されています。

ただただ人を見守るしかないゴースト
ただただ人を見守るしかないゴースト

 その後、家の住人は何度か入れ替わっていきます。ヒスパニック系の家族、パーティ好きの若者たち。それらをCは黙って見守り続けるのですが、やがて時の流れの中で家は取り壊され高層オフィスビルへと姿を変えてしまい、もうここにいても何も起きないと悟った彼は、時空を超えた過去への旅に向かって身を躍らせるのです…。

 監督のデヴィッド・ロウリー(『ピートと秘密の友達』)は時間の流れを自在に操り、観客をめくるめく幻想世界に投げ込んでいきます。夫の死に呆然としているMがチョコレートパイを無表情に食べ続けるシーンを数分間ひたすらに捉え続けていたかと思えば(ここは演じたルーニー・マーラもしんどかったことでしょう)、カットが切り替わるたびに数年(時に数十年)が経過していたりと、まるで上質なSF小説を読んでいるような酩酊感。

高層ビルの上階に立つCのゴーストは何を思う…
高層ビルの上階に立つCのゴーストは何を思う…

 Cのゴーストは、何も語らず、表情がないことで心象風景は観客が想像するしかないのですが、その佇まいからは、たまらない寂寥感が伝わってきます。象徴的なのはMが去ったあと、隣家にも自分と同じようなゴーストがいたことに気付くくだり。隣家のゴーストは“あること”がきっかけでこの世から完全に消滅してしまうのですが、そこがどうにも切ないのです。

 角の丸まったスタンダードサイズという独特の画面も印象的で、まるで昔のスライドプロジェクターを見ているような奇妙な気分にさせてくれます。説明的なセリフを避け、音楽も必要最小限、繊細な感覚が全体を覆っているのです。

「自分のいなくなってしまった世界」をさまよい、愛する妻を思い続けた彼の旅路の果てに待っていたものは何か? エンディング後の余韻がいつまでも残る映画です。

(付記)

 まったくの偶然ですが、似たようなタイトルの『シシリアン・ゴースト・ストーリー』という映画が12月22日から公開されます。こちらもホラーではなく切なさあふれる幻想的なラブストーリー。この作品も公開日近くなったらレビューしたいと思っています。

(『A GHOST STORY』は11月17日から公開)

配給:パルコ

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