本物のフレディの歌声&完璧に再現されたパフォーマンス『ボヘミアン・ラプソディ』でクイーンを体験しよう

 フレディ・マーキュリー物語として考えた場合、彼の生い立ちが描かれていないのが物足りないし、それではバンド・ヒストリーかというと、フレディ以外の3人の描写がきわめて少ない。では、この映画『ボヘミアン・ラプソディ』の立ち位置は何か? やはり、あの時代の「クイーン現象」を追体験できる場として捉えるべきなのでしょう。劇場の大音量で聴く名曲の数々は(演奏シーンで流れるのはほとんどフレディ自身の歌声です)、完璧に再現されたビジュアルと共に、観客を興奮と感動の世界に誘ってくれるのですから。

 70年、昼間は空港で働いているザンジバル生れの青年ファルーク・バルサラは、フレディ・マーキュリーと名乗り、独特の容姿にコンプレックスを抱きながらも、唯一無二の歌声を武器にバンド活動を開始します。ボーカリストに去られた「スマイル」のメンバー、ブライアン・メイとロジャー・テイラーに出会ったフレディは彼らと合流、ベースのジョン・ディーコンを加えてバンド名を「クイーン」に変更。そこから彼らの栄光への道が始まっていくのです。

数々の名曲を生んだレコーディング風景も見どころ
数々の名曲を生んだレコーディング風景も見どころ

 メンバーのブライアンとロジャーが全面協力しているだけあって、名曲の誕生秘話やバックステージでの人間関係など、興味深いシーンの連続。音楽も二人が音楽総指揮として手がけているので、貴重な未公開ライブ音源や新たなリミックスも登場し聴きごたえたっぷり。冒頭の20世紀フォックス・ファンファーレからしてクイーン・バージョンになっています。

 そんな中で描かれるのがフレディの孤独な魂の彷徨。婚約者の女性と幸せな時間を送っていた時に、自らがゲイであることに気付き彼女と別れることに。さらに個人マネージャーの策略に乗ってメンバーやスタッフと切り離され、酒やドラッグに溺れていく。そして、悲しい病の宣告が…。解散寸前に追い込まれた時、フレディは本当に大切なものに気付き、メンバーに自分の決意を告げます。そして迎えた世界的イベント、ライヴ・エイドのステージに、彼らはすべてを賭けるのです。

フレディとメアリーの関係も切ない
フレディとメアリーの関係も切ない

 フレディを演じるのはTV「Mr. Robot/ミスター・ロボット」でエミー賞を受賞したラミ・マレック。他のメンバーに扮した俳優たちも若き日の本人たちが出演しているかのような再現度です。フレディの恋人から親友となり、生涯彼を支え続けたメアリーを演じるのはルーシー・ボイントン。クイーンの音楽を理解できないレコード会社社長役に大のクイーン・ファンであるマイク・マイヤーズが扮しているのがご愛敬(『ウェインズ・ワールド』での「ボヘミアン・ラプソディ」の場面、覚えていますか?)。

 ところで、ブライアン・シンガー監督の演出は力強くはありますが、ところどころ時代考証を無視したところが目立ちます。74年のアメリカ・ツアー(3枚目のアルバム「シアー・ハート・アタック」リリース前)の場面で78年の「ジャズ」収録曲「ファット・ボトムド・ガールズ」を演奏していたり、「ウィ・ウィル・ロック・ユー」のあの有名なフレーズが作られるシーンでフレディがすでに短髪&ヒゲのスタイルになっていたり(アルバム「世界に捧ぐ」リリース時にはフレディはまだ長髪)。さらにドラマチックな効果を出すためでしょうか、69年にはすでに友人だったフレディとロジャーを70年に初対面させたりもしています。

 同時代を体験したファンからすると、そうした細かな不満はあるのですが、クライマックスの85年7月13日のライヴ・エイドのステージはそんなものを吹っ飛ばす最高のパフォーマンスが堪能できます。映画を観た後で実際のステージを確認したのですが、ステージアクトはもちろん、観客やカメラマンまで完全再現。その入魂のライブ(音声は本人のものですしね)は裏側の事情を知って観ると、感動の涙を禁じ得ない仕上がりです。あの時代を知っている人が必見なのは当然として、まだクイーンを知らない人にもぜひ観ていただきたい作品です。家庭では再現不能な劇場の大音量の迫力も、たまらなく魅力的なのですから。

(付記)

さらに言えば、84年の「サンシティ事件」(当時アパルトヘイトを実施していた南アフリカに抗議するため、同国での英国人の公演は禁じられていたが、クイーンは強行出演。そのため、本国でバッシングを受けただけでなく、その後の世界ツアーでは抗議デモにあったりステージに罵声が浴びせかけられたりした)のことも描かれていません。やはりブライアンやロジャーにとっては今なお思い出したくない黒歴史だったのか…。ちなみに世界情勢に興味が薄く、クイーン信者が多い日本では、例外的に熱狂的な歓迎を受けています。

(『ボヘミアン・ラプソディ』は11月9日から公開)

配給:20世紀フォックス映画

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