トランプもオバマも、マイケル・ムーアがぶった斬る!『華氏119』アメリカはどこへ行く?

(c)Paul Morigi / gettyimages

 本作『華氏119』と似たタイトルの作品『華氏911』(04)で当時のブッシュ政権を徹底的に攻撃し、カンヌ映画祭パルムドールに輝いたマイケル・ムーア監督。当然、今回はトランプ政権に対する挑戦状、と思ったら、それだけではありませんでした。もちろん、間もなく行なわれるアメリカの中間選挙に向けての危機感が作らせた映画であることに間違いはないのですが、単なる「トランプ叩き」ではなく、「民主主義とは何か?」を問いかける映画だったのです。

 冒頭はヒラリーが敗れ、トランプが大統領選に勝利するという世紀の大番狂わせ当日から始まりますが、そもそもムーアは大統領選の前から「トランプが勝つ」と予言していた人物。「なぜトランプが勝ったのか(というよりも、なぜヒラリーは負けたのか)」をまず解説してくれます。民主党のヒラリーも共和党のトランプも、富裕層の味方というイメージが強く(ヒラリーは実際にウォール街の金融業者から献金を受けていました)、政策の違いが見えてこない。そもそも若者や労働者階級に人気のあったバーニー・サンダースを、ヒラリーを候補にするために追い落としたのは民主党自身でした…。

 ところで、マイケル・ムーアの映画はジャンル的には「ドキュメンタリー」ですが、一般のドキュメンタリーが「記録映画」として扱われるのに比べると、明らかに異質です。かなりエンターテインメントに振れていますし、ムーア自身の主張や意見を、記録映像を使って語っていくのが主目的。本作では、トランプ政権の問題とはやや離れた、ムーア自身の故郷であるミシガン州のフリントという街で起きた水道水汚染問題にかなりの時間を割いています。一部の金持ちが儲けを得るために、多くの住人(フリントは貧しいアフリカ系の人々が多い街でした)の健康を犠牲にし、データを偽り続けていたというひどい事実。しかも住民が希望を託した当時のオバマ大統領も、彼らを助けてくれませんでした。

フリントの汚染水を抗議のために放水するムーア
フリントの汚染水を抗議のために放水するムーア

 そう、この作品は単にトランプ大統領(後半ではアドルフ・ヒトラーが権力を握っていく過程と、トランプ政権誕生の図式の類似性が指摘されます)を批判するだけでなく、政権維持のために妥協を続けた結果、共和党との政策や姿勢の違いが見えなくなってしまった民主党も槍玉に挙がっているのです。彼らに失望して投票に行かなかった人たちの票があったら、結果は変わっていたことでしょう。しかも、実際はヒラリーの方が総得票数ではトランプを300万票も上回っていたというのに。トランプを支持する少数派の意見が“選挙人制度”によってアメリカ全土の意思となり、国民の総意が反映されない民主主義って何?

 そんな状況の中でムーアが期待を寄せるのは若者たち。18年2月に銃の乱射事件で17人の犠牲者を出したフロリダ州パークランドの高校の生徒たちは、銃所持の規制強化を求める運動を開始し、首都ワシントンだけで20万人以上を動員したのです。彼らが選挙権を得る時に、アメリカは変わるのか? 彼らを見つめるムーアの瞳は、まるで父親のような優しさにあふれていました。

(『華氏119』は11月2日から公開)

配給:ギャガ

(c)2018 Midwestern Films LLC 2018