スタジオジブリの遺伝子を継ぐスタジオポノックの新作『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』

 本作の製作会社であるスタジオポノックは、2014年にスタジオジブリの製作部門が解散した後に、ジブリのプロデューサーだった西村義明氏によって立ち上げられたアニメーションスタジオ。2017年の夏に第1回作品となる『メアリと魔女の花』を米林宏昌監督(『借りぐらしのアリエッティ』『思い出のマーニー』)で公開しました。そしてこの夏、新プロジェクトの『ポノック短編劇場』が始動します。

 その第1弾が『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』。3作品のオムニバスです。まずはそれぞれの内容を簡単にご紹介。

『カニーニとカニーノ』の監督は『メアリと魔女の花』の米林宏昌。擬人化されたサワガニの兄弟を主人公にしたファンタジーです。川底にひっそりと暮らす一家でしたが、嵐の日に父親のトトが濁流に流されてしまい、兄のカニーニは、甘えん坊の弟カニーノと共に父を探す冒険の旅に出ます。米林監督にとって、少年が主人公の作品もオリジナルの物語もこれが初めて。

『カニーニとカニーノ』
『カニーニとカニーノ』

 高畑勲監督の右腕と言われた百瀬義行監督が実話を基に描いた母と息子の感動のドラマが『サムライエッグ』。東京の府中市に暮らす小学生のシュンは野球好きの元気な少年。しかし、彼は生まれついてのたまごアレルギーに苦しんでいました。ある日、そんな彼に事件が起きて…。

『サムライエッグ』
『サムライエッグ』

 宮崎駿作品でアニメーターとして腕をふるってきた山下明彦が監督したのは『透明人間』。古ぼけたアパートに暮らす透明人間。普通の人間と同じ生活を送ろうとするものの、周囲から次第に存在を認識されなくなっていきます。自動ドアやATMにも無視される彼は、とうとう重力からも見放され、このままでは空高く舞い上がって消えてしまう…。

『透明人間』
『透明人間』

 「子供から大人まで楽しめるアニメーション作品を作る」というのがスタジオポノックの設立時のポリシーだそうで、その狙いは本作にも活かされています。しかも、子供は子供なりの楽しさが発見できるのに加え、大人の視点ではさらに深い意味が味わえるよう工夫されているのです。たとえば『カニーニとカニーノ』はカニの兄弟が活躍する冒険ファンタジーであると同時に、食物連鎖や弱肉強食という自然界の掟の厳しさも教えてくれます。『サムライエッグ』は少年シュンの視点で描かれていますが、重度のアレルギーを抱える子供を持った親の苦悩もまたにじみ出てくるのです。それは『透明人間』も同じ。このままでは宙に浮かんで戻れなくなる主人公の必死のサバイバルをダイナミックなアクションで描くだけでなく、「他人に認識されないことの孤独」「他者との関係性を失った人間の悲しさ」もまた描き出されています。

 3本合わせても54分というコンパクトな仕上がりですが、それぞれ起承転結がしっかり描かれ、内容は深みのあるもの。木村文乃、鈴木梨央、尾野真千子、坂口健太郎、オダギリジョー、田中泯という実力派に加え、オーディションで選ばれた10歳の篠原湊大が声優に挑戦。特にオダギリはほとんどセリフのない役で、息遣いや吐息だけで喜怒哀楽のあらゆる感情を表現するという高度な演技を披露してくれます。

(ポノック短編劇場『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』は8月24日から公開)

配給:東宝

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