男女平等を賭けて男女テニス・チャンピオン同士が対決した実話の映画化『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』

『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』というタイトルからセクシャルorエロティックなものを想像するかもしれませんが、これは「性差を超えた戦い」の物語。プロテニスの世界で女子現世界チャンピオンと男子元世界チャンピオンが戦ったという実話の映画化なのです。

 ヒロインはビリー・ジーン・キング。“キング夫人”の愛称で知られ、あの人気マンガ「エースをねらえ!」にも実名で登場するほどの有名人。60~70年代のテニス界を語る上で忘れてはならない人物です。

 舞台は1973年、男女平等を訴える運動が世界のあちこちで起こっていた時代。全米女子テニス・チャンピオンのビリー・ジーン(エマ・ストーン)は、次期女子大会の賞金が男子の八分の一しかないことに抗議しますが、全米テニス協会のジャック・クレイマー(ビル・プルマン)は、「観客を呼べるのは男子だけ」と却下。怒ったビリー・ジーンは、友人でジャーナリストのグラディス(サラ・シルヴァーマン)の力を借りて“全米女子テニス協会”を立ち上げます。何人もの女子プロがそれに賛同。自分たちでスポンサーを探し、宣伝活動も行ない、史上初の色とりどりのウェアを身にまとった彼女たちは大きな話題を集めました。

 そんなビリー・ジーンに挑戦状を叩きつけたのは、元世界王者のボビー・リッグス(スティーヴ・カレル)でした。55歳となり表舞台から遠ざかり、ギャンブル依存症で妻プリシラ(エリザベス・シュー)から愛想をつかされた彼は、もう一度世間の脚光を浴びたいと、大きな賭けに出たのでした。その申し出を一蹴したビリー・ジーンでしたが、別の女子プロがボビーと試合して負けたことで抜き差しならない状況に追い込まれていきます。「男の方が女より優秀だ」と息巻くボビーを止められるのは、彼女しかいなかったのです。かくして「男性至上主義のブタ対フェミニスト」と題された世紀の一戦が幕を開けました。

世間が大注目をする中、ついに対決の時が…
世間が大注目をする中、ついに対決の時が…

 さて、この作品、ビリー・ジーン対ボビーの男女テニス対決以外にも、もうひとつの“性”の問題を描いています。ビリー・ジーンは団体設立会見前に髪をセットしてくれた美容師のマリリン・バーネット(アンドレア・ライズブロー)にどうしようもなく惹かれてしまい、ツアーに同行させるようになっていくのです。夫のラリー・キング(オースティン・ストウェル)を愛しているビリー・ジーンでしたが、このときめきを抑えることはできず、やがてスキャンダルとなってしまいます。

 男女同権が叫ばれ始めていたとは言え、まだ“ほんの始まり”にしか過ぎなかった時代。女性の前にはさまざまな壁が立ちはだかっていました。クレイマーやボビーはかなり侮蔑的な発言を繰り返しますが、彼らのような男性優位の考え方が世論をリードしていたのです。ビリー・ジーンの戦いは、単にテニス界だけにとどまらず、政治や社会、学校や家庭における男女関係を見直すきっかけになったのですが、一見、平等化が実現したように思われる現代においても、本当にすべてが解決したのか? という問題点もこの映画は提起しています。日本でも政治家がたびたび問題発言をしているように、表面上は男女同権をうたってはいても、心の奥底にはまだ差別意識が残っているのでは? 70年代を舞台にした過去の物語でありながら、その視点はつねに“今”に向いています。

 主演の二人はいずれも名演。『ラ・ラ・ランド』でアカデミー主演女優賞に輝いたエマはテニスに初挑戦。4か月の特訓と7キロの筋肉を付けるという肉体改造によって、未経験者が世界チャンピオンに変身したのです。また彼女はキング夫人本人とも親しくなり、見た目はまったく似ていないにもかかわらず、その精神を受け継いでキング夫人そのものになりきっていきました。『フォックスキャッチャー』でアカデミー賞候補になったスティーヴ・カレルが演じたボビー・リッグスははっきり言って憎まれ役ですが、『40歳の童貞男』などコメディアンとしての実績のあるカレルが演じたことで、落ち目となった男の悲哀も感じさせるキャラになり、ただの下劣男に堕することがありません。

 製作ダニー・ボイル、脚本サイモン・ボーフォイという『スラムドッグ$ミリオネア』のスタッフが再結集。『リトル・ミス・サンシャイン』のヴァレリー・ファリスとジョナサン・デイトンのコンビが監督にあたっています。70年代を再現したファッションや小道具の数々も見ごたえたっぷり。お遊びとして冒頭の映画会社マークまでが70年代風にアレンジされているのです(実際にはフォックス・サーチライト・ピクチャーズの設立は94年なので、このマークは実在しません)。

(付記)

テニスの伝説の選手を描いた映画では80年代のライバル二人を描いた『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』が8月下旬に公開されます。こちらも、近日レビューする予定。

(『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』は7月6日から公開)

配給:20世紀フォックス映画

(c)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation