「今の私は本当の私じゃない…」そんな想いを抱く人が観たら心にグサッと突き刺さる映画『女と男の観覧車』

 もしもあなたが「今の私は本当の私じゃない」「いつかきっと私のことをわかってくれる人が現れる」「ここじゃないどこかで、私はもっと輝けるはず」といった想いを抱いているならば、この映画『女と男の観覧車』は心にグサッと刺さるはずです。

 ウディ・アレン監督作品というと都会的でおしゃれな大人のラブコメディーを想像する人が多いでしょうが、今回の作品には笑いの要素はなく、テネシー・ウィリアムズあたりが書きそうな人間ドラマが描かれています。アレン作品で例えると、『ブルージャスミン』をもっと残酷にしたようなお話なのです。

 時は1950年代、舞台はニューヨーク、コニーアイランドの遊園地。ウェイトレスとして働くジニー(ケイト・ウィンスレット)は、再婚同士で結ばれた回転木馬の操縦士ハンプティ(ジム・ベルーシ)、前の夫との間の息子リッチー(ジャック・ゴア)と、窓の外に観覧車が見える部屋での3人暮し。彼女は夫に隠れて、海岸で監視員のバイトをしているニューヨーク大学の学生ミッキー(ジャスティン・ティンバーレイク)と関係を続けています。そんなところへ、5年も音信不通だったハンプティと前妻との間の娘キャロライナ(ジュノー・テンプル)が突然戻ってきました。彼女は親の反対を押し切ってギャングと駆け落ちしたのですが、相手とは離婚。FBIに証言を強要されたため、元夫から追われる身になっていたのです。ハンプティは娘を受け入れ、キャロライナは昼間はジニーと同じレストランで働き、夜は教師を目指して夜学に通う生活を始めます。そんな日々を送る中、キャロライナはミッキーと偶然に出会い、次第に親しくなっていくことに。それを知ったジニーの中に嫉妬心が燃え上がっていきます。ちょうど折も折、キャロライナを追って、ギャングが姿を現して…。

大学生ミッキーに最後の希望を見出しているジニーだったが…。
大学生ミッキーに最後の希望を見出しているジニーだったが…。

 全盛期を過ぎ、さびれ始めていた観光地コニーアイランドを舞台に、一人の女性がたどる悲劇が描かれます。ジニーはかつて女優として舞台に立っていたことがあり、そのことが(それほど大きな役はもらってなかったようですが)生きる支え。今でも当時の衣装や小道具を取り出しては、輝いていた時代に思いをはせています。粗暴な夫との生活は惰性で続いているに過ぎず、息子のリッチーに火遊びの悪癖があってしょっちゅう事件を起こすのもいらだちの原因です。そんな彼女の唯一の希望は、大学で演劇を学んでいるミッキーが自分のために脚本を書いてくれ、それによって女優として復活すること。しかしミッキーは若いキャロライナに魅せられていくように思え…。

 ジニーは現状に満足することができず、この町を出て幸せをつかむことを夢見ています。しかし、それは“誰か”の手によってであって、自分自身でそれに向かってなにかしらの努力をしているというわけではないのです。そんな人生の袋小路に立った中年女性の心の歪みを、ケイト・ウィンスレットが大熱演。とてもあの『タイタニック』のヒロインと同一人物とは思えない迫力で、気まぐれで自己中心的なジニーになりきっています。

キャロライナが父親を頼ってきたことから物語は動き出す
キャロライナが父親を頼ってきたことから物語は動き出す

 撮影は『ラストエンペラー』などで3度のアカデミー賞に輝いた名匠ヴィットリオ・ストラーロ。ジニーが登場する場面は夕陽などの赤を基調に、対照的にキャロライナは青空の下などのブルーで撮るという手法で、世代の違う女性を色調を変えて表現しています。衣装や装置など、再現された50年代の雰囲気に酔わされる作品でもありますが、驚くことに、ジニーたちが住む部屋の窓から見える観覧車やジェットコースターなどの映像はすべてVFXによって作られたものなのです。

 

(『女と男の観覧車』は6月23日から公開)

配給:ロングライド

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