エリートの建前と本音の落差をブラックに笑い飛ばしたカンヌ最高賞受賞作『ザ・スクエア 思いやりの聖域』

人を信じるか信じないかの二択ボードの前に立つ主人公クリスティアン

 この『ザ・スクエア 思いやりの聖域』は昨年のカンヌ映画祭で最高賞パルムドールに輝いた作品。『フレンチアルプスで起きたこと』のリューベン・オストルンド監督の新作だけあって、本作にも「毒」がいっぱい詰まっています。日本語サブタイトルの『思いやりの聖域』がじつに皮肉に響くのです。

 主人公クリスティアン(クレス・バング)は現代美術館のキュレーター。洗練されたファッションに身を包んだ、見るからにエリートです。彼が新たに進めている展示は、「ザ・スクエア」という、地面に正方形を描いただけのもの。「その中ではすべての人が平等の権利を持ち、公平に扱われる」という参加型アートで、「現代社会にはびこるエゴイズムや貧富の差に一石を投じるもの」と彼は語ります。

 しかし、ある朝、通勤途中で携帯電話と財布をすられてしまったことから(この手口がじつにお見事なのですが)、クリスティアンは負のスパイラルにはまっていきます。GPS機能を使って犯人の住むアパートを特定できたものの、どこの部屋にいるかまではわからないので、全戸に脅迫めいたビラを投函するという非常手段に出ます。それも、実行は他人にやらせるという情けなさ。さらに、このことでうわの空になっていた彼は、PR会社が出した、展覧会のプロモーションのため、ネットでわざと炎上するような映像を流して話題を広めようというプランを、聞き流して承認してしまいます。結局盗まれたものは戻って来たのですが、彼のビラは無関係な相手を大きく傷つけることにもなっていたのでした。しかもネットに流された映像は世間から想像以上の怒りの反響を集めてしまい…。

 一見、正義感溢れる善人のように見えるクリスティアンですが、次第に事なかれ主義の無責任男であることがわかってきます。建前では平等や博愛をうたいながら、内心では差別主義に満ちている。「思いやり」を口にしている当人が、最も「思いやりに欠けた」存在だった。そんな傲慢なエリートたちの表と裏の落差をブラックに笑い飛ばした作品。「言っていることとやっていることの違い」をシニカルに描いていますが、同時に「これって、彼だけの問題なの?」という問いも投げかけます。

美術館のパーティ会場には謎の男が乱入。これは演出なのか?
美術館のパーティ会場には謎の男が乱入。これは演出なのか?

 貧しい人には施しをしてあげようとするクリスティアンがコンビニでナゲットを買わされるシーン。美術館の入口で「人を信じる」「信じない」の二択を迫られ、「信じる」の方を選択したのに、「携帯と財布を床に置いていけ」と言われて躊躇することの矛盾。演出なのか事件なのかも不明なパーティ会場の乱入男…。観客を居心地悪くさせる不快感に満ちたシーンが連続し、目が離せなくなっていきます。クリスティアンの転落ぶりに大笑いしながらも、「正義って、理想って何だろう?」ということについても考えさせられる映画なのです。

(『ザ・スクエア 思いやりの聖域』は4月28日から公開)

配給:トランスフォーマー

(c)2017 Plattform Produktion AB / Societe Parisienne de Production /Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS

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