S&Gの名曲に乗せて描かれるニューヨークの青春物語『さよなら、僕のマンハッタン』

 この作品『さよなら、僕のマンハッタン』の原題はThe Only Living Boy in New York。音楽通ならすぐにピンとくるタイトルで、サイモン&ガーファンクルのアルバム「明日に架ける橋」収録の「ニューヨークの少年」の原題と同じ。この曲にインスパイアされた題名なのは確実で、実際に映画の中でも印象的に使われています。

 主人公はもう「少年」とは言えない25歳のトーマス(カラム・ターナー)。大学卒業を機に、出版社社長の父イーサン(ピアース・ブロスナン)と元アーティストの母ジュディス(シンシア・ニクソン)のもとを離れ、一人暮らしをしています。一度だけ関係を持ったことがあるけれど彼氏持ちのミミ(カーシー・クレモンズ)とは友達以上恋人未満の微妙な関係。アパートの隣の部屋にはW.F.ジェラルドと名乗るおかしな隣人(ジェフ・ブリッジス)が越して来て、たまに人生のアドバイスを与えてくれます。

主人公に扮したカラム・ターナーと謎の隣人を演じるジェフ・ブリッジス
主人公に扮したカラム・ターナーと謎の隣人を演じるジェフ・ブリッジス

 そんなある日、トーマスは父親が浮気していることを知ってしまい、躁うつ病の母親の身を案じて別れさせようと決意。浮気相手のジョハンナ(ケイト・ベッキンセール)を追い回すうち、勢いで彼女と深い関係になってしまい…。

 主人公のトーマスがメガネをかけていて、自虐的な言葉を吐いては、生き方を模索しているあたりは、舞台がニューヨークということもあってウディ・アレンの映画を彷彿とさせます(モデル出身のターナーはアレンよりはるかにハンサムですが)。父の愛人と関係を持ってしまい、しかも彼女に夢中になってしまうあたりは『卒業』(これも主題歌はサイモン&ガーファンクルだった!)などのニューシネマ的側面も。しかし『(500)日のサマー』のマーク・ウェブ監督は、シニカルな笑いに向かうのではなく、迷える若者の成長物語としてしっかりと成立させています。“本当の自分”が見つけられずに喪失感ばかり感じていたトーマスは、さまざまな人たちとの関係性の中から、進むべき道を見出していくのです。

父の愛人(ケイト・ベッキンセール)に夢中になるトーマス
父の愛人(ケイト・ベッキンセール)に夢中になるトーマス

 しかもこの作品には、親たちの世代のもうひとつのドラマも隠されています。詳しく話すとネタバレになってしまうので、詳細は観てのお楽しみですが、家族と愛情に関するなかなかに感動的なエピソードなのです。演技達者な助演陣(特にジェフ・ブリッジスが渋い!)の力を入れない好演が光ります。

 トーマスの両親など上流階級の人たちが住むアッパー・ウエストサイドと、家を出たトーマスが住むロウワー・イーストサイドの対比、ジョハンナのアパートがあるソーホー、おなじみのセントラルパーク、ナイトクラブやレストランなど、ニューヨークの表情が生き生きと捉えられているのも見どころ。監督によれば、これは「リアルな描写ではなく、人々がニューヨークに対して持つイメージや憧れを描いたもの」なのだとか。

ピアース・ブロスナン扮する父と会食するレストランもNYの名所
ピアース・ブロスナン扮する父と会食するレストランもNYの名所

 音楽の使い方も巧みで、タイトルとなった「ニューヨークの少年」の使いどころはお見事ですし、ボブ・ディランの「ジョアンナのビジョン」(登場人物名のジョハンナはここから取られた)やルー・リードから、ハービー・ハンコック、ビル・エヴァンス、チャールズ・ミンガスなどのジャズまでが流れ、選曲のセンスの良さを見せつけてくれます。

 ウェブ監督は『アメイジング・スパイダーマン』2作も手がけましたが、やはり『gifted/ギフテッド』や本作のような小規模な作品の方が似合っているようですね。

(『さよなら、僕のマンハッタン』は4月14日から公開)

配給:ロングライド

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